闇の果ては光となりて
第五章 悪事は暴かれる
「神楽」
「ゲッ、霧生」
一階の踊り場にいた私は、霧生に名前を呼ばれ、脱兎の如く逃げ回る。
チームのメンバーがそんな私達に生温かい視線を送ってくるのは、最近じゃこれが見慣れた光景だからだろうか。
自立宣言をしたあの日から、霧生を避ける私と、私を構おうとする霧生の追いかけっ子が続いてる。
捕まったら最後、ベタベタと引っ付いて甘やかされるので、私はとにかく必死に逃げる。
あの男は、私の決意を何だと思ってるんだろうか。

「ククク、逃げんのが上手くなってきたな、神楽」
そう言いながらも溜まり場の隅に私を追い詰めた霧生が、私の首根っこを掴んだ。
「は、離して」
ジタバタと暴れても霧生に適うはずなんて無くて、私はあっさりと俵担ぎにされ、幹部室へと連行される。
助けてぇ〜と、こちらを見ているメンバーに手を伸ばして訴えるも、それが聞き届けられた事は今まで一度も無い。
みんなの薄情者〜!
「霧生、適切な距離だよ」
パシパシと霧生の背中を叩く。
「俺が決めた距離が、俺の適切だ」
どこの俺様だよ。
「霧生は、こんなことしちゃいけないと思う」
「こんな事ってなんだよ」
「か、彼女以外とくっついたりする事だよ」
そう言いながら、胸の奥がツキンと痛んだ。
「お前は誰に入れ知恵されたんだろうな。まぁ、もう少しすりゃ全部丸く収まるだろうがよ」
霧生は低い声でそう言うと、幹部室のドアを押し開けた。
全て丸く収まる? 霧生は一体何を言ってるんだろう。
私にこんな風に構ってないで、舞美さんを大切にしてあげて欲しいな。
そう思うのに、心と気持ちは上手く伴わない。 
霧生に構ってもらえる事を嬉しいって、喜んでる私が心の隅に居るんだもん。

「逃げ足の早い子猫を無事確保出来た所で、七夕暴走の打ち合わせを始める」
幹部室に入ってきた私と霧生を見て、総長が呆れた様に笑った後、雰囲気を変え話し出す。
霧生は私をソファーに下ろすと、迷う事なくドカッと隣に座る。
七月七日の暴走集会。
野良猫のみんなは、それに浮足立ってる。
かく言う私も、初めての暴走に胸を躍らせてたりもする。

「警察の警備を掻い潜り、全員が無事にここに戻ってくる為には、綿密な情報収集と計画が必要だ。もちろんうち以外のチームも暴走を計画してるだろう。今回からは神楽も参加だ。無益な衝突や小競り合いは出来るだけ避けてぇ」
面倒だからな、と付け足した総長に部屋の中に笑いが湧いた。
「他チームとのルートの調整は僕がするよ」
はいはーいと手を上げた光が言う。
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