恋のレッスンは甘い手ほどき

かといって、張り切ったいかにもデートという服に着替えるのも何だか違う気がする。
何より、それは恥ずかしいし。
少し考えて、綺麗目のニットとスカートという、カジュアルにも見えるしちゃんとした服装にも見える洋服に着替えた。
昨日のこともまだ頭から消え去っていなく、しかも自分の気持ちに気が付いたばかりなのに二人で出かけるなんて……。
普通にできるかな。

「まともに顔が見れなさそう……」

だからといって、出掛けないという選択肢はない。
意識していませんよという様子を見せるためにも、ソファーで借りてきた漫画を読みながらのんびりと待っている姿を見せてみた。
パラパラとめくっていると、貴也さんは支度を済ませ現れた。

「待たせたな。行こうか」

そう言いながら車のキーを指でくるくると弄んでいた。

「どこに行くんですか?」

車に乗り込んでから、行先を訪ねるとニッと横目でこちらを見ながら笑みを浮かべた。

「美味いイタリアンがあるんだ。そこでランチしよう」
「イタリアンですか? いいですね」

イタリアンは好きだ。お腹もすいているし、嬉しくてふふっと笑顔を浮かべると貴也さんは私の頭をわさわさと撫でた。
急に触れられてドキッとする。

「ボサボサになります」

抗議の声を浮かべるが、貴也さんは可笑しそうに笑っている。
改めて感じることは、貴也さんは本当に私を恋人に触れるように触ってきていたんだなということ。
今まではその仕草にときめいていたのに、今はその仕草をしてくる「貴也さんに」ときめいている。
それと同時に、心の中で『春までなんだから』と戒めた。
春まではこの関係を楽しむ。
でももうこれ以上は好きにならない。深入りしない。
そう心で何度も繰り返した。

車で20分ほど走った後、貴也さんはパーキングに車を駐車した。

「店はすぐそこなんだ」

着いていくと白い壁にイタリアの旗が掲げてある、洋館風なレストランに到着した。
大きい店ではないが、見た目からしてオシャレだ。
ドレスコードなどあるような敷居の高そうな店ではないが、いかにもデート向きという感じもする。

< 72 / 104 >

この作品をシェア

pagetop