恋のレッスンは甘い手ほどき


食事を済ませて、二人で手を繋ぎながらイルミネーションを見て歩く。
周りは同じようなカップルだらけだ。みんな二人の世界で、他の人たちなんて目に入っていない。
私もそう思われているんだろうな。チラッと自然と繋がれた手を見て、胸がくすぐったくなる。
胸元のネックレスもなんだかくずぐったく感じて、でも凄く嬉しくて笑みが溢れる。

「なんだか今日はやけに素直だな」

帰り道、貴也さんが私の顔を覗き込んできた。

「そう、ですか?」
「あぁ。今日だけじゃなくて、ここ最近特に。捨て犬がやっと懐いてくれたような気分がする」
「なんでそんな変な例えするんですか」

むくれながら反論すると、はははと声を出して笑われた。
すぐそうやってからかうんだから。
でも、素直と言われて嫌な気分ではなかった。

「私はいつも素直です」
「そうでしたか。俺はてっきり好きな奴でも出来たのかと思ったよ」
「え……」

急にそう言われて、思わず足を止めた。

「ん? 図星?」
「なんでそう思ったんですか?」

急な発言に戸惑いが隠せない。
貴也さんへの気持ちがばれてしまったのだろうか。
この気持ちは知られたくなかったのに。
どうしよう、と動揺すると貴也さんは私の手を一瞬、ギュッと握ってから離した。

「え……」

手を離され、胸がズキンと痛む。
貴也さんを見あげると、眉を潜めながらも口角を上げて微笑んだ。

「相手は、野上?」
「え、野上さん?」

予想もしなかった名前にポカンとする。

「野上が好きなんだろ?」

好き? 野上さんのことを私が?
何の話か頭が追いつかなく、言葉を失っていると貴也さんは私にお構いなく話続けた。

「この前、食堂で親しそうに話しているのを見かけた。前にタクシーで送ってもらった件もあるし、そうなのかなって」

親しそうって……。
ただ話をしてただけなのに、どこがそう思ったんだろう。
思い返してハッとする。
親しげにしたつもりはないが、指を絡ませてご飯を奢る約束はした。
そこを見られたのだろうか?

「誤解です。野上さんとは別に……」
「無理するな。好きな人が出来たら隠さずに言うこと、場合によっては同居も恋人関係も解消する。それが契約内容だったろ」
「そうですけど……」

貴也さんの言葉に戸惑いが隠せない。
急にどうしてそんなことを言うのだろうか。

「俺はいつでも解消していいから」
「え……」

その言葉に目の前が真っ暗になった。
今、何て言ったの?

「鈴音に好きな人が出来たなら、応援する」

優しく微笑むと、ゆっくりと歩き出した。
私はその背中を追いかけることが出来なかった。
ただ、小さくなっていくその姿を呆然と見送るしかできなかった。

なんで? どうしてこうなったの?
これは夢……?
物の数分前まではとても幸せの中にいた。
貴也さんとディナーして、プレゼントも貰った。
最高のクリスマスだと思っていた。
素敵な思い出が増えたと思っていたのに……。
どうしてこんな話になったの?

追いかけてそう聞きたいのに、足が鉛のように動かなかった。



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