強引上司に絆されました
さくら堂の鬼課長

小さな頃から、文房具が好きだった。
老舗文具メーカーのさくら堂に内定を貰った時は、飛び上がる勢いで嬉しかったのを覚えてる。

入社して五年、佐藤穂花(さとうほのか)二十七歳。
今では商品開発部企画課で、主任を任せられている。
さくら堂には、三年周期で当たり年がある。
ワインみたいだが、当たり年の社員は役職者が多い。
どうも私は当たり年に入社したらしく、同期で営業部の青山君も主任だ。
そして私の直属の上司、東海林課長も桜葉部長も、私の3年前に入社している。

「佐藤、新規の企画上がってるのか?」

デスクで珈琲を啜りながら、タブレットを確認しつつ私に質問しているのは、企画課課長の東海林吏(しょうじつかさ)。
鬼課長と言われる位、仕事に関しては厳しい人。
そして私の新人教育の、係だった人。
容赦なく仕事をぶっ込む、三十歳独身。

「後一時間位で、提出します」

私は企画書を確認しつつ、答える。

「それ終わったら、画材の企画頼むな」

そら来た。
少しは休憩させてよ。
不眠不休とは言わないが、ここ二、三日産みの苦しみを味わったのに。
締切より二日も早いよ・・・まあ、折を見て休むけど。

「了解です」

私の返事に満足そうに頷くと、後輩の木戸君に催促する。

「木田、お前の企画は今朝締切だか、提出ないぞ!」

「すいません、後一時間下さい」

「仕方ねえな、待ってやるがコンペじゃこうはいかないぞ」

「ウッス、肝に命じます」

「お前もそれ終わったら、筆記用具な」

「うへぇ、了解ですぅ」

「頭の軽い女子高生みたいに、語尾を伸ばすなよ」

「ウッス!」

企画課ではお馴染みの遣り取り。
課長は溜息を吐きながら、パソコンを打ち始める。

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