【シナリオ版】釣った夫は腐ってました!~鈴ノ木夫妻の新婚事情~
4話 嘘つきな笑顔
○会社の更衣室、ロッカー前。

結婚式から一ヶ月。華は結局なにも決断できずに、光一との気まずい同居生活を続けていた。

いまの時刻は始業十分前。ロッカーの内側についた小さな鏡の前で、華は髪型とメイクをチェックする。ゆるくカールするロングへアはパーマではなく天然だ。子どもの頃はからかわれたりすることもあって、コンプレックスだったけれど、今となってはセットいらずで便利だなと思っている。ブラウン系のアイメイクにピンクベージュのリップ。受付嬢としては地味かもしれないけど、華の純和風で薄い顔立ちにはこれが一番しっくりくる。そのまま、にっと口角をあげてみる。

華「よしっ。今日も一日頑張りますか」
いつもなら憂鬱なはずの月曜日の朝だけど、今日は気分が軽い。

美香「あれ〜? 華さん、なんかご機嫌ですね? いいなー、やっぱり新婚さんは幸せなんですね!ずるーい、私も鈴ノ木さんと結婚したかった〜」
いつものごとく、時間ギリギリに出勤してきた後輩の美香がかわいらしく頬を膨らませる。
華「‥‥は、はははっ。ま、まぁ、おかげさまで」
ひきつった笑顔を浮かべるしかない華。

華(絶対言えない。この上機嫌はその鈴ノ木さんと離れられるからだなんて)
少なくとも、それなりに忙しい仕事中は余計なことを考えなくて済む。
今の華には、それだけでずいぶんと気が楽になるのだ。

美香「鈴ノ木さんて家ではどんなふうなんですか? 甘えん坊だったりします?きゃー、羨ましい!」

なんとも答えづらい質問を、美香は無邪気に投げかけてくる。でも、その気持ちは華にもわかる。彼は会社のアイドルだから。華だって、もし、自分以外の受付仲間の誰かが光一の妻になったのだとしたら、同じようにあれこれ質問していただろうと思う。


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