彼女を10日でオトします

ここで産声を上げた『もうひとりの』俺は、の10日目


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 太平洋と言えど、岸壁を打つ冬の波は荒い。

 こうやって、この岩の壁は削られ、えぐれていくんだろう。

 あの日から、何センチ、いや、何ミリ磨り減ったのか。
 
 太陽がてっぺんからやや落ちてきた、だいたい午後2時。
 切り立つ崖の上に座って、かれこれ2時間くらい水平線を眺めてる。

 吹き上げる潮風が髪を乱暴に撫でていく。

 ばあちゃんの手、みたいだ。

 節ばったしわしわの両手で、ワッシャワッシャと俺の髪をかき回した。「今このときが一番幸せし思いんしゃい」と言いながら。

 それから、「あの子にも、こうしてやれば良かったなあ」と苦い顔で笑った。

 あの子とは、親父のことだ。たぶん。
 親父はひとりっこだから、ばあちゃんの子供は親父だけ。

「なあ、ばあちゃん。ばあちゃんに手紙もってきたんだ。
これ……」

 ダウンジャケットから手紙を取り出した。
 封筒あけて便箋をひらく。

 便箋の両端を持つと、はたはたと風を受ける。

「はは……我ながら、きったねー字。
酔って書いたって言ってもこれは酷いよね」

 『今が一番幸せ』ってさ、やっぱり、わかんないよ。
 これ、書いたときより、わかんない。

「あの人……母さんが倒れたんだってさ。全部、全部、俺のせいだ。
何で、俺、あんなことしたんだろう」

 なんで……俺は、許せないんだろう。

「俺、これから、どうすればいいのかな」

 声は、まっすぐ波間に落ちていく。

「あ」

 ひときわ強い風が吹き上げて、手に持っていた便箋が後ろへ飛んだ。

 追いかけようと、体を捻って立ちあが――

「私は……はあっ、はあっ……これからあなたを……はあ……」 

「キョン……?」

「はあ……殴るわ」

 後ろにキョンが立っていた。

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