彼女を10日でオトします

ねえ、キョン



「たすくさん!!」

 キョンの声。
 重たい瞼を上げると、キョンが必死な形相が目に入った。

「いい加減にしなさいよ!!
たすくさん、あなた、バカでしょ!?」

 キョンの片方の瞳、緑色の表面に、俺の顔が映る。
 メロンフロートの中の俺は、自分でも見たことがないくらい、優しい顔をしていた。

 なんだ、こんな顔ができるんじゃん、俺。

「何とか言いなさいよ!!
ひっぱたくわよ!!」

「ひっぱたかれちゃ……堪んないよ、キョン。
俺、いちお……川岸から、キョンに手を差し伸べたつも――」

「煩いわね!!
いいから、黙りなさい!!」

 ど、どっち?

「川……原は……?」

「喋らないでって言ってるでしょ!?
あの人なら、どっか行っちゃったわよ!!」

 そうか。よかった……。

「こんなのね……こんなの……。
助けたうちに入らないのよ!!
たすくさんが……」

 キョン、泣いてるの?

 俺の肩を抱く、キョンの腕に力が入る。
 暖かいものが、俺の頬に落ちた。

 ねえ、キョン、もったいないよ。
 俺の為に泣いてくれてるんだとしたら、涙がもったいない。

 駄目だ。キョンの顔がかすれて……。

 ああ、やっぱり、キョンの考えは外れたね。

 俺には、ずっと『11』が浮いていたんだ。
 キョンが見えなかっただけ。

「たすくさん!!
目、開けなさいよ!!
早くあけないと、ただじゃおかな――」

 キョンの声までかすれてきた。
 最後にキョンの声を聞くことができたなんて、俺、ラッキー。

 もう、おれ、だめかも……。



 瞬間、プツ、と途切れた。



 
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