冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜
イジメの首謀者と頼れる仲間たち

『蓮の分も楽しんでくるよ』と、チャットアプリで送信してから、わたしは家を出た。

今日はクラスのみんなで集まるバーベキュー大会。強制参加では無いが、クラスメイトの殆どが参加する事になっている。

わたしは担当食材である、箱詰めされたトウモロコシを両手に抱えて神前駅で森さんと落ち合った。

二人で電車に乗り込み、現地集合場所であるバーベキュー場まで移動する。車窓には早朝の太陽が差し込む。

「凄い荷物ね雫」

「あー、もう肩が凝って仕方ないよ。食材はクジで決めたから仕方ないけどね。森さんは担当食材何だっけ?」

「私は焼きそば用の麺よ」

「当たりクジだね」

「そんな事無いわよ。三十人分ともなれば、かなりの重さなんだから」

そう言って彼女は、三十人分の麺が入ったリュックをわたしに差し出した。持ってみると確かにズシリと重い。

「今、日本で、否、世界でこんだけの麺をリュックに入れてる女子高生はあんただけだよ」

「嬉しくない称号ね」

真面目で模範的な生徒である森さんとは、何処と無く馬が合う。

それにしても彼女は清楚で大人っぽい服装でいらっしゃる。ポニーテールも似合っている。

それに引き換え、わたしは紺のキャロットスカートと、『stupid』とプリントされた襟付きのTシャツと子供っぽいコーディネートだ。
 
「ジロジロ見てどうしたの?」

「いやー、わたしもそう言う大人っぽい服装にしたいなーなんて」

「そう。雫はその服装似合ってると思うけど」

「それって子供っぽいって言う事?」

「んー、そうね」

森さんはそう言って満面の笑顔を見せた。
電車に揺られる中、会話は大いに弾んだのだ。

程なくして、バーベキュー場のある駅へと辿り着いた。



駅の外に出るとクラスメイトたちがチラホラと目に入った。

何人かと談笑しながら駅からバスで移動する。二十分ほどで清流の流れるバーベキュー場へと到着し、バスを降り立った。

昼前には参加者全員が集まり、参加人数も多い事もあって3グループに分かれる事となった。

わたしは昔からくじ運が悪い。森さんとは別のグループとなったのだ。

わたしは持ち前のコミュニケーション能力を活かし、グループのクラスメイトたちとも直ぐに打ち解けた。楽しいバーベキューの時間はあっという間に過ぎ去った。

胸よりもポコリと膨らんだお腹を抑え、帰り支度となった時に事は起こった。

「わたしのリュクが……」

「どうしたの宮橋さん? げっ! 焼肉のタレまみれじゃん。誰だよこんな事した奴!」


同じグループの男子はその様を見て、他のクラスメイトたちに詰め寄ろうとしたが、わたしは彼を宥めた。

「別に大丈夫だよこれぐらい。ワザとじゃないと思うし」

「これ絶対ワザとだろ。こんなにぶっかけて気付かない訳ないし。俺に任せてよ」

「本当に大丈夫だから! 折角の交流の場なんだし、最後に雰囲気悪くしたくないから。ねっ、お願い?」

彼はわたしの懇願に渋々と承諾した。


わたしはリュックの汚れを川で洗い流した。

良かれと思ってここで引いた事が、後にイジメのエスカレートに繋がる事を、この時わたしは気づきもしなかったのだ。
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