チャポン…。

ああ、あれから美波先輩には公私ともにお世話になりっぱなしだ。

翌年入社して、庶務係に配属された恵利ちゃんにも、初めは麻美ちゃんの事があったせいで心を開くのが怖かったけど、人懐こい彼女からグイグイ来てくれたので、今では美波先輩と3人でとても仲良しだ。

ああ、恵利ちゃんが入れてくれた入浴剤、とても良い香り。

麻美ちゃん…。
悠太によると、麻美ちゃんはやはり、入社以来…大河の事が好きで…。

大河が私に話しかけてくる事も、それに対して私ごときが塩対応なのも、ずっと腹立たしくて色々と嫌がらせをしていたらしい。

私の私物を隠したり、ロッカーを荒らしたのはともかく、パソコン内のデータを消したり、発注したものを勝手にキャンセルしてしまったりした事が、会社に不利益を与えたという事で、麻美ちゃんは懲戒解雇になった。

庶務係の方達には理由が明かされたが、若くて将来もある事から麻美ちゃんの解雇理由は外に漏れる事は無かった。

社内の掲示板に麻美ちゃんが懲戒解雇になった旨が告示されると、私と美波先輩が社食で昼食を食べている席まで、わざわざ受付の斎藤紫織が来て言った。

「いいわね。社長のお嬢様は。気に入らなければ同期でも簡単に辞めさせる事ができて!」

「馬鹿ね。そんな事が出来るんだったら、あなたが一番に辞めさせられてるんじゃないの?」

美波先輩が言うと、斎藤さんは悔しそうに私をひと睨みして…。

「とにかく!同期全員、あなたの事を絶対に許さないから‼︎」
と言い捨てて行ってしまった。

それから同期の女子の間で私は…社長の娘である事を傘にきて、気に入らない同期を辞めさせた酷い女、というレッテルを貼られたらしい。

同期男子も同期会などでその噂は聞いていて、そう思われているとばかり思っていたので、今日高橋君から、私と話したいという同期がいっぱいいると聞いても、全く信じられないでいた。


とにかくそんな事もあり、それ以来、大河とは特に接触しないように注意していたのに!

なのに…なんで手なんか繋いで!
よりにもよって大河狙いの女子社員が大勢参加しているこの慰安旅行で!
しかも…恋人繋ぎなんて。

本当に、大河は何を考えているんだろう。
麻美ちゃんの時の事だって、悠太に聞いて知っている筈なのに。

それに…あの「俺と結婚してくれ」って…。
花蓮に言うのならわかるけど。
どうして私に言うの?

もしかして…練習…だったりして?

『頼み』って、花蓮にプロポーズするのに自信がないから私で練習させてくれって事だったのかな?

うん、きっとそうに違いない!

私の前ではいつも意地悪で偉そうな大河だけれど、まだ花蓮に告白すらできていない感じだったし、婚約までしている悠太から花蓮を奪い、長年の恋を成就させるためには、プロポーズの練習でもしておかなければ不安だったのだろう…。

きっとそうに違いない。

あの「結婚してくれ」は、きっとただの練習。
キスは…ただの悪ノリ⁉︎
私に意地悪なあの男の事だ…。
そんなの十分あり得る!

考えてもしょうがない、あんなのは大きな犬に噛まれたとでも思って忘れてしまおう…。

ふぅ。色々グダグダ考えていたら、ちょっと長湯をしてしまった。