極上御曹司のヘタレな盲愛
お風呂から上がり、部屋着に着替え髪を拭きながら
「恵利ちゃん、入浴剤ありがとう。長湯をしてたらちょっと逆上せちゃった。何か冷たいものを…」

美波先輩と恵利ちゃんが先に飲んでいるウッドデッキに向かった私の足が、ピタリと止まった。

「お兄ちゃん!大河!なんで居るのよ!」

ウッドデッキでは、美波先輩と恵利ちゃんと、なぜか光輝と大河がお酒を酌み交わしていたのだ…。

「緊急避難だ!」
ビールを片手に光輝が言う。

「俺と大河、管理棟で同じ部屋なんだけどさ。もう10分おきに部屋のインターホンが鳴るんだよ…」
光輝がげんなりした顔で言う。

大河は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「肉食女子…怖ぇ」

どうやら光輝達の部屋を、肉食女子の方達が代わる代わる訪れ…。
『お部屋で一緒に飲んでもいいですか?』
と、強引に部屋に上がりこまれそうになったり…。

『私達の部屋で一緒に飲みませんか?』
と、数人がかりで引き摺られていきそうになったり…。

『私、湯上りなんです…抱いてください…』
と、その場で押し倒されそうになったりと、とにかく大変だったらしい。

「でも…!」
と私が口を開こうとしたら、美波先輩が
「しっ!」
と、人差し指を口に当てて遮った。


その時、コテージ裏の小道を数人でパタパタ走る音がして…。

「いた⁉︎」「いない‼︎」

「まったく、どこに行っちゃったんだろう!常務と水島課長…」

「こっちの方に歩いて行くのを見たんだけどな」

「部屋に戻っているのかもよ。もう一度行ってみようか」

「待って!走ったら汗かいちゃった!こんなんじゃ、抱いてもらえない!お化粧直してからにしよう!」

「こんなチャンス二度とないわよ!なんとか捕まえて、酔わせてモノにしなくっちゃ!」

「わかってるって!誰がゲットしても恨みっこなしね!」


「………」
私達は、無言で速やかに、お酒とおつまみを全部持って、そっとウッドデッキからリビングに入り、掃き出し窓をピシャッと閉めたのだった…。

リビングにみんなで落ち着くと、一斉に「ふぅ〜」という溜息が漏れた。

「確かに…肉食女子、怖いですねぇ」

「だろ?一緒に部屋で飲んだりした日にゃ」

「散々飲まされて酔わされて、前後不覚にされて…」

「裸に剥かれてベッドに転がされて…」

「翌朝目が覚めたら、裸の女に責任とって下さいって涙目で言われて…」

「3ヶ月後には結婚式ですね」

最後、恵利ちゃんがしめると、男2人は心なしか青ざめ震えていた。

「しょうがない。匿ってあげますよ。責任とれなんて言わないから、朝まで飲みましょう!」

美波先輩が酎ハイを掲げて言うと、私以外の3人が

「おーーー‼︎」
と声をあげた…。

「そういえば、桃とこうして飲むの初めてじゃないか?家でも飲んだ事ないよな」

「うん、そうだね」

光輝の言葉に、本当、今回の慰安旅行は想定外の事ばかりだよ、と思った。

普段なら絶対にしない事ばかりしている気がする。

光輝や大河と一緒に飲むなんて…普段の私なら、絶対にしない!


それでも…。
その夜の謎の飲み会は、なぜかとても楽しかった。
光輝や大河の話も面白く、そこに美波先輩が突っ込み、恵利ちゃんが面白おかしく絡むので…。
私はずっと笑っていて…。


いつも先輩と恵利ちゃんと飲みに行く時より、随分と飲み過ぎてしまったんだ…。


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