極上御曹司のヘタレな盲愛
「電車で行きます!電車で行かせて!」

「は?一緒に住んでて目的地も一緒なのに、どうして別々に行くんだよ!」

「だって!誰かに見られでもしたら、私もう会社に行けなくなっちゃう!」

「アホか!この期に及んでまだ他人の目を気にするのかよ!俺達婚約したんだぞ!
大体、本当だったらお前は今日から『水島 桃』になってる筈だったんだ!
一昨日、花蓮と悠太が婚約発表した時だって、みんな拍手して終わりだったじゃないか!
お前は気にしすぎなんだよ!」

だって!花蓮は『残念な方』じゃないから!

夫婦だったら一緒に出勤しても誰も何も言わないから、やっぱり今から婚姻届を出しに行こう!
今すぐに署名しろ!書け!と、昨日の婚姻届を渡してこようとする大河。


「待って!お願い!大河!私達が一緒に住んでる事、会社の誰にも知られたくないの!
婚約の事も、結婚の事も…。一生のお願い!誰にも言わないで!」

私は大河に手を合わせて必死にお願いした。

「麻美ちゃんの時みたいになったら怖いの…」

そう言うと、大河はムゥっと眉間に皺を寄せ
「わかった」
と渋々という感じで答えた。

「婚約、結婚と、一緒に住んでいる事は会社では誰にも言わない。…今はな…。
だけど、結婚したら言う!
婚約中は基本黙ってるけど、ここは言っておかないとって俺が判断した時には言う!」

これでいいか?と問う大河に
「うん、お願いします」
と答えながら…。
大河はなんでそんなにも他人に言いたいのだろうと思った。

だって私とは『とりあえず』の結婚で…そのうち大河が花蓮を手に入れたら別れるのに。

そもそもなんでそんなに『結婚』がしたいんだろう。

大河だって一旦私と結婚しておいて、花蓮と一緒になったら体裁が悪いだろうに。

わざわざ戸籍を汚す意味もわからない。
本当に、大河の気持ちがわからない…。


でも朝一緒に出勤する事は諦めてくれたみたい。

軽い朝食を作り大河と一緒に食べると、片付けをして早々に家を出た。

「行ってきますのチューは?しないのかよ?婚約者なのに!」
と言う大河の言葉は聞こえないフリをした。

どれだけ形にこだわるんだろう…。


エレベーターで1階まで降りる。

フロントの前を通る時…。

「似鳥様、行ってらっしゃいませ」
と昨日とは違うコンシェルジュさんに言われた。

凄い!すでに申し送りされている!

私は軽く会釈をすると、駅へと急いだ。


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