心、理、初
辺寺の辛い過去
○二階のリビング(十五時~十六時)
心(辺寺の幼なじみが…自殺?)
初「自殺した幼なじみは、理也の隣の家に住んでて、小さい時から何をするにもいつも一緒、本当の兄弟みたいに仲が良かったらしい。だから、理也は相当なショックを受けていたらしいんだ」
心「そうでしょうね……」
心(大切な人が居なくなるのは…すごく辛いよね……)
心は十三年前のパパの遠ざかっていく後ろ姿を思い出す。
初「自分自身の事もかなり責めていたらしい。自分が会いに行かなかったせいだって……」
心「辺寺はその幼なじみと…会ってなかったの?」
心(仲が良かったんじゃ……)
初「うん…。中学が別々だったんだ。理也は私立中学、幼なじみは公立中学に通っていて、方向も全然違うから、偶然でも会う事はなかったらしい」
心「それでも…家が近いんだから、学校が終わった後とか、休みの日に会う事も……出来たよね?」
初「そうだね…。だから、理也は自分を責めたんだよ。いつでも会えると思って…幼なじみよりも、勉強や部活を、優先してしまったから……」
心「辺寺は今も…苦しんでる……」
心(責めてるんですね……。ずっと……)
初「うん……。だから理也は、カレーを見る事も、食べる事も出来ないんだ。カレーが好きで、よく食べていた…幼なじみを思い出してしまうから……」

○(回想)カフェ心貴呂(昼)
心「辺寺。カレーが出来たから、持っ…」
理也「持っていけ」
理也は目を逸らしている。
(回想終了)

○(回想)カフェ心貴呂(十五時~十六時)
心「辺寺。カレー…」
理也「俺、トンカツで」
(回想終了)

心「もし…カレーを見たら…食べたら…辺寺はどうなるの?」
初「間違って食べた所は見た事がないから分からないけど……」
心「間違って見た所を見た事は…ある…」
初「うん…。勤務中にね。見てしまったらしくて……トイレで吐いて……泣いてたよ……」
心「うちのお客様は、カレー注文する人…多いもんね……」
心(それだけ間違って見てしまって…そうなってしまう事も…多くなるよね……)

○カフェ心貴呂(十五時~十六時)
理也が一番テーブルの席に座り、ボーッとしていると、心の父が笑顔で、テーブルを挟んだ向かい側の席に座る。
心の父「片付け、終わりました」
理也「ありがとうございます」
理也は我にかえると、座りながら、頭を下げる。
心の父「心ちゃんの事を考えてましたか?」
理也が顔を上げる。
理也「新谷は…本当に大丈夫……なんですか?」
心の父「辺寺くん。心ちゃんを……大事に思っていますか?」
理也「あの…それは……」
心の父「もちろん。そういう意味ではなく」
理也「はい。大事に思っています」
心の父「そうですか…。なら、話していた方が良いですね」
心の父は笑顔を消すと、真顔で理也を見る。
心の父「心ちゃんは、ある人に関係する物や事に何かあると、パニックになってしまうんです」
理也「“ある人とは”……誰なんですか?」
心の父「前に話しましたよね。私と心ちゃんと男の人の三人で住んでいた事があると」
理也「はい」
心の父「“ある人”とは、その男の人です。心ちゃんが十二歳の時に出ていった、心ちゃんが“パパ”と呼んでいた人です」
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