心、理、初
カレー=パパ
○カフェ心貴呂(十五時~十六時)
理也「つまり……あのカレーが、“パパ”と関係がある物…という事ですね」
心の父「そうです。あのカレーは、彼がよく作っていたカレーで、心ちゃんが一番好きな食べ物なんです」
理也「すごく好きな事は知っています。毎日食べてますし、何度も自分に食べさせようとしますから…」
心の父「心ちゃんは、辺寺くんに食べてもらって、好きになって欲しかったみたいだ。今日はその強い気持ちが暴走して、カレーがひっくり返った事で、パニックになってしまったけどね」
理也「すいません……。自分のせいで……」
理也は申し訳なさそうな顔をする。
心の父「辺寺くんのせいじゃないよ。あれは心ちゃんが悪いんです」
理也「自分も悪いじゃないですか、カレーをひっくり返して…」
心の父「わざとじゃない。
でしょ?」
理也「はい……」
心の父「だから、辺寺くんは悪くないよ」
心の父が理也に微笑む。
理也「ですが……そのせいで新谷はパニックに…」
心の父「自分のせいじゃないのに、自分のせいにしてしまう…。
二人は似ているね」
理也「新谷も…自分のせいだと思っている事があるんですか?」
心の父「心ちゃんは……私と彼が…別れたのは自分のせいだと、ずっと…思っているんだ。違うって…何度も言ってるのに……」
理也「だから…新谷はパニックに……」
心の父「心ちゃんはきっと…自分を責め続けているんだよ……」
理也「責め…続けている……」

○(回想)カフェ心貴呂のトイレ(昼)
理也「うっ…げっ……」
理也はトイレのドアを開けっ放しにしたまま、便器に顔を突っ込んで、吐いている。
理也「はぁ……」
理也は吐くのが落ち着くと、トイレの側に座り込む。
理也「ごめん…。俺のせいで……ごめん……」
理也は謝りながら、泣く。
(回想終了)

○カフェ心貴呂(夜)
心「辺寺。カレー出来たんだけど」
キッチンで、心と理也が向かい合って立つ。
理也「新谷……悪いけど…」
理也は心から目を逸らしながら言う。
心「何番テーブルだっけ?」
理也「三番…テーブル……」
理也は心から目を逸らしたまま言う。
心「三番テーブルね」
心は出来上がったカレーと、銀色のスプーンを乗せたおぼんを持って、三番テーブルに向かう。

○カフェ心貴呂の閉店後(夜)
理也「お疲れ様です」
初「お疲れ様です」
店の片付けが終わると、理也と初は心と心の父に頭を下げ、二階に上がろうとする。
心「辺寺、初くん、待って!」
心がキッチンから、理也と初を呼び止める。
心「好きな食べ物、二つずつ教えて!」
理也「……何で?」
初「心ちゃん……。突然…どうしたの?」
心「新しいメニューを増やしたいの!」
理也「そうか……」
初「考えるね……」
心「うん! お願い!!」

○二階の廊下(夜)
心は向かいの理也の部屋の前に立つと、二回ノックすると、ドアが開き、理也が目の前に現れる。
理也「新谷?」
理也が驚いた顔をする。
心「ちょっと…良いかな?」
理也「入れよ……」
理也が右横に動く。
心「ここでいい。すぐ終わるから」
理也「そうか……」
理也が中央に動く。
理也「何だ?」
心「ごめんなさい!」
心が理也に頭を下げると、ゆっくり頭を上げる。
心「ひどい事して……ごめんなさい……」
理也「いや……俺も……」
心「カレーは今週で終わらせるから」
理也「…えっ?」
心「じゃあ、明日ね」
理也「待て! 終わらせるって…」
心「お父さんも了承してる」
理也「人気メニューだろ……」
心「他にも人気メニューはある」
理也「お客様が減るかも……」
心「辺寺と初くん目当てのお客様が多いから、減らない」
理也「新谷が一番好きな食べ物だろ……」
心「そうだけど、今一番大事にしたいのは辺寺だから。
うちの店の従ぎょ」
理也は心に近づいていくと、心を両腕で強く抱き締める。
心(………えっ?)
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