ことほぎのきみへ
だから怖かった
「…」



『でも、ごめん』


『泣き方、思い出せない』




……あの日の

ひさとさんの
優しくて悲しい笑顔と言葉が忘れられない



泣けないって

泣き方を思い出せないって

どれほど耐えて

感情を抑え付けて

今まで生きてきたんだろう


……



「……いろはちゃん?」

「……え?」


雑貨屋さんの前でぼんやりと立ち尽くして
考え込んでしまっていた私に

少し自信無さそうに声をかけてきたのは


「やっぱりいろはちゃんだ」


うつ向きがちだった私の顔を覗き込んで

私だと認識してふわりと表情を緩めたのは


「ゆまちゃん」


彼女だった





「制服姿、初めてだったから人違いかなって思って」

「そういえば、私もゆまちゃんの制服姿初めて」


街中で偶然出くわした私とゆまちゃん

立ち話もなんだからと
近くのお店で一緒にごはんを食べていくことになった


「ブレザーってかっこいいね」

「セーラー服も可愛いよ」


お互いの制服姿を褒め合いながら
メニュー越しに笑い合う


「いろはちゃんは何か買い物だったの?」

「文化祭で使えそうな雑貨を探してたの」

「そっか、うちの学校も今準備期間なんだ」

「やっぱり、どこも同じ時期にやるんだね」
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