溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~
9.パーティーの夜に
たくさんの人と会話を交わす専務の様子を見守り、必要ならば挨拶をして雑談に加わる。
そんな忙しくも充実した時間はあっという間に過ぎていき、創立記念パーティーが無事に終わった。
「雨宮さん。今日は本当にありがとう。疲れただろ?」
会場を出た私に、専務が労いの言葉をかけてくれる。
初めて出席した記念パーティーは緊張の連続だったけれど、一番大変だったのは私ではない。
「いいえ、大丈夫です。専務もお疲れさまでした」
今回の創立記念パーティーの主催者であるヤマギシフーズの社長を始め、招待客は専務より年上の人ばかり。彼のほうが気疲れしたのではないかと思いつつ声をかける。すると、彼が白い歯を見せて微笑んだ。
「明日は土曜日だ。ゆっくり過ごそうか」
仕事が休みの日でも、出張や接待ゴルフなどが入る専務のスケジュールも今週末は終日完全オフ。
「はい。そうしましょう」
“ゆっくり過ごす”という明日のスケジュールが決まったことがおかしくて、ふたりでクスクスと笑い合ってロビーを横切り、社用車が待つ正面玄関へ向かった。
パーティーが終わったばかりの車寄せスペースにはたくさんの高級車が止まっていて、すぐに社用車を見つけることができない。
湿度の高いモワッとした夏の夜の空気を不快に感じながら辺りを見回していると、すぐ先にあるタクシー乗り場の先頭に並んでいる男性とふと目が合った。
彼は黒縁メガネの下に見える切れ長の奥二重の瞳を大きく見開くと、私を避けるように急いで視線を逸らす。その不自然な彼の振る舞いを目にしたら、記憶の奥に眠っていた忌々しい過去が脳裏によみがえった。