対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
1.交流館の危機
ここには、外とは違う時間が流れている。

日本独自の文化が生まれ、ひらがなを使ったやわらかな書、煌びやかな貴族、十二単を身にまとう強かな女性たちが暮らしていた時代。平安時代にタイムスリップできる場所、それが、平安和歌交流館だ。


そんな平安時代で、男女が駆け引きに使ったアイテムが歌。どんな大物も、歌を読めなければ相手にされない、逆を言うと、歌が上手ければ小悪魔にもなれる。

そんな和歌は、時代を超えて詠み人の想いを届けてくれる。だが、そんな駆け引きが行われていたのも今から1000年以上も前のこと。誰が読んだのかわからない歌も山のように存在している。


今日も、詠み人の知れぬ和歌たちが、詠み人の想いを届ける。

「この川の流れのように、私とあなたの想いは行き違い、交わることはないのでしょうね。
きっと、世の中にはそんなことがありふれている。そんなこと、わかってはいるけれど、私はあなたの声を待たずにはいられないのです。

自分ではない女性と結婚した男にこれだけ純粋な歌を詠めるなんて、さすがだなー。
どんな人が詠んだんだろう。
これぞ、純愛よね」


切ない恋ごころに触れてうっとりとしているのは、この交流館の従業員である恵巳。

毎朝、こうして和歌と向かい合い、対話をして思いを巡らすのが彼女の日課であった。
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