独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 嗚咽が漏れないように唇を噛みしめたとき、唐突に雨が止んだ。怪訝に思って顔を上げると、頭上に黒色の男物の傘が差し掛けられている。

「大丈夫、ですか?」

 気遣うような男性の低い声が聞こえてきて、詩穂は右側を見た。詩穂の顔を見て、男性が「ああ」とつぶやき、一転してぞんざいな口調になる。

「やっぱり小牧(こまき)だった。こんなところでなにやってんだ?」

 スタイリッシュな黒のスーツを着こなし、一六三センチの詩穂を余裕で見下ろすその長身の男性は、詩穂の大学時代の同級生、須藤(すどう)蓮斗(れんと)だった。

「げっ、須藤くんっ!?」

 少し甘さを感じさせる端整な顔立ちの彼は、詩穂とは正反対の人生勝ち組の男。こんな状態の時にはできれば会いたくない類いの男の姿を見て、詩穂は反射的に体を起こした。

「『げっ』とはご挨拶だな。久しぶりの再会だってのに」
「久しぶりって言ったって、去年の十二月にゼミの同窓会で会ったじゃない」
「もう十ヵ月も前の話だ。それより、天気予報を見てないのか? 今日は夕方から雨の予報だったんだぞ」

 蓮斗に顔を覗き込まれ、詩穂は顔を背けて手の甲で涙を拭った。

「持ってるよ。ちょっと濡れたかっただけ」
< 7 / 217 >

この作品をシェア

pagetop