クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する

大人のプリン

程よい甘さのカスタード。

custard pudding(カスタードプディング)
cream brulee(クレームブリュレ)
crema catalana(クリームカタラーナ)
chou a la creme(シュークリーム)

カスタードの魅力に魅せられた氷山愛菓(ひやまあいか)26歳。

高等学校の洋菓子専門コースを卒業後、製菓専門学校のグランパティシエ科に通った。

学生時代のバイトも、もちろん製菓部門。

恋もほどほどに、朝から晩までお菓子にまみれる日々。

全国コンクールで優勝し、いつの間にか
゛バニラの魔術師゛と呼ばれるまでになっていた。

ブラックのコックジャケットにパンツ、ブラウンのロングカフェエプロン。

ホワイトのワークキャップの中には、肩下までのウェービーロングヘアがすべて納められている。

スリムだけれど、体力仕事のパティシエールらしく筋肉が程よくついたモデル体型。

しかし、インドア派の女性らしく素肌は真っ白で艶やかだ。

大きく美しい瞳は、カスタードを作りあげる自らの腕に集中しており、寸分の狂いもなく、適切なタイミングで計量された材料を混ぜ合わせていく。


゛le sucre (ルスュークル)゛

ここは、愛菓が高校時代からバイトし、そのまま就職した洋菓子店。

佐藤を混じって゛砂糖゛という意味のフランス語の店名。

現在還暦を迎えた佐藤健一・美和子夫婦が経営する洋菓子店だ。

数年前、愛菓が商品化させたカスタードスイーツが話題を呼び、le sucreは順調な経営を行ってきた。

そして、昨年イタリアから帰国した一人息子のショコラティエ、佐藤優吾(さとうゆうご)35歳と、その妻美佳32歳が加わり、le sucreは順風満帆だった。

ショーケースの向こうでは、透明のパーテーション越しにスイーツを作る2人の男女と初老の夫婦が見える。

「ショコラティエの優吾さん素敵ね」

「いや、やっぱ愛菓さんっしょ」

ショーケースの商品は持ち帰りとして購入できるだけでなく、店内にカフェブースも設けられている。

しかもテーブルからは、パテーション越しの製造エリアを眺めることができる。

優吾もまた、王子さま系のイケメンショコラティエとして雑誌を飾る実力の持ち主だ。

老若男女、このle sucre のファンは多い。

ライブ感覚で、スイーツの製造行程を見に来る男女もいる一方で、その技術を盗もうと訪れる同業者もいた。

しかし、優吾と愛菓の技術は別格で、とても他人に真似できるようなものではなかった。


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