クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する

夢の第一歩

「はあ、愛菓さん、どうしたらそんなに滑らかな生地とクリームができるんですかぁ」

2週間後、ホテルオークフィールドの一階に位置する゛favori crème pâtissière ゛がオープンしていた。

開店時間は正午から午後21時。

仕事帰りやお昼時に立ち寄って、より多くの人に購入する機会を持ってもらいたいとの、愛菓の切なる思いからだ。

゛自分にとっても、従業員にとっても絶対にブラック企業にはしない」

究極のマイペースと思われた愛菓だったが、実は経営者としてもなかなかの資質があり、店の主としての力も十分あることが分かった。

「材料の配分と混ぜるタイミング。存分に見て盗め。私は一向に構わない」

姿勢のよい侍女子・愛菓。

le sucreにいた頃は、どうしてもオーナー夫妻やその息子夫妻に遠慮が見られていたが、ここでの愛菓は一皮向けたように自由で一本筋が通っていた。

「それができれば悩んでませんよ。愛菓さんのレシピ通りに作っても同じになりません」

23歳のパティシエール、長友阿左美がため息をついた。

「同じである必要はないよ。阿左美の全力をスイーツにぶつけてごらん。スイーツが答えてくれるから」

そうやってパテを操る愛菓は、阿左美にとっても、リピーターの顧客にとっても近くて遠い憧れの存在だった。
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