「社長のお知り合いの方が山を売ることになって、社長は山を開拓して巨大分譲住宅にする、と言い出したそうです。その担当を桐谷係長に任せるそうですよ」

 奈津美の話にハッと我に返り「そうなんだ」と頷いた。彼女も「うんうん」と頷き返し、話が続く。

「営業の成瀬部長が社長に桐谷係長を推したそうですよ。政樹さんが営業部の同期から聞いたそうなので、間違いないです」

 「政樹さん」というのは奈津美の旦那様、経理部の藤川課長のことだ。

 「桐谷係長、戻ってきたら課長に昇進するって話です。すごいですよね!」
と、奈津美は「雲の上の人みたいですね」と軽く首を振っていた。

 そうか。
 彼はもう課長になって、私とは関わりのない上層部の人間になっていくんだ…。

 桐谷秀人の噂はトイレで聞く情報で一番多かったが、それは嬉しくもあり寂しくもあった。

 奈津美は「咲さん」と口を開いた。
先程と180度変わった、固い表情。

 「そして、もう一つのニュース…最近よく本社へ来ているみたいですよ…大阪の宇田支店長が」