俺の、となりにいろ。

 空の箱に乗り込んだ私は、八階のボタンを押す。
 設計部は長年勤務している社員が多い。

 ──用を済ませて、さっさと戻ろう。

上昇する四角い空間の中で、そう思った。


 八階廊下の右側に設計部のエリアがある。
 ドアに貼られた「設計部」のプレートを見て、小さく息を吐く。

 コン、コン。

 軽くノックして「失礼します」と言って、ドアを静かに開けた。

 今はパソコンで図面が書ける時代なのに、設計部の空気は紙とインクの匂いがした。

 ドアの近くにいた男性社員たちの視線が、一斉に私へ向けられた。すぐに視線は他へ向くというのに、この一瞬がすごく嫌だった。

 「あの…紺野主任はみえますか?製図用紙を持ってきました」

 俯いてボソボソと、独り言のように言ってみた私。
 しかし部屋の中は人の声と印刷する機械音、キーボードの叩く音とエアコンの音に、わたしの蚊のような声なんか誰にも聞こえるはずがない。

 所詮、会社の中でも、音の中でも、私の存在なんて…こんなものだ。
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