仁瀬くんは壊れてる
#03 苦しい?
#03


「森本のやつ。ハナシ長いんだって〜」

 小走りで、更衣室へ向かう。
 朝のSHRで担任がのんびり挨拶したためだ。

「これで遅刻したら森本に抗議してやる」

 ――沙羅の顔が、見られない。

 昨日、帰りに際に起きた出来事が。
 悪い夢だったらどれだけよかったか。

「?」

 着替えの最中。
 沙羅が、わたしを見て目を丸くさせた。

「どしたの。それ」

 視線の先は、やや右斜め下。

 つまり沙羅の目線は、わたしの首の左側に向けられている。

「それって」
「絆創膏」

 心臓が、ドクンと大きく揺れた。
 動揺が表情や声に出そうになるが、ぐっとこらえる。
 
「ダニかな」
「ダニ?」
「夜、かいたみたいで。起きたら血が出てた」
「ふーん。キスされたみたい」
 …………!!
「なんでそうなるの」
「花、知らないんだ〜? キスされたら、あと残るんだよ」

 知らなかった。
 今朝、鏡の前に立つまでは。

「みんな向かっちゃったけど」
「ヤバ!!」

 沙羅が自慢のロングヘアをポニーテールに結う。
 体育のときだけ結び、終わればほどく。

 …………なんとか、ごまかせた。
 気づかれなかった。

 バレるわけない。
 誰が思う?

 あの仁瀬くんがわたしにキスしてきた、なんて。
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