My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

3.ラグ

 空は満天の星たちで輝いていた。
 この世界にはまだ電気がないようだ。先ほどの城も照明には松明や蝋燭を使っていた。
 だからこんなにも無数の星々の光が確認できるだろう。

 でも、今はそんな感動に浸っている場合ではない。
 自分の身一つで空を飛ぶという初体験の真っ最中なのだ。
 ゆっくりと後ろに首を回すと、まるで水の中にいるように体の向きを変える事が出来た。
 眼前には黒い壁のような山々が聳え、月に照らされた部分だけが白く浮かび上がって見えた。

(あ。この世界にも月があるんだ)

 ふとそんなことを思う。
 足元には底なしのような黒々とした樹海が広がっていて、別に高所恐怖症というわけではないが十分に背筋が冷えた。

「山ん中に入っちまえばこっちのもんだ。とりあえずあの辺りに降りられるか?」

 少年の指さしたのは山の麓あたりだ。
 私は歌いながら頷く。
 すると思った通りに体は前進してくれてホっとした。
 しかし鳥のように早くとはいかなかった。もしかしたら地面を走った方が早いかもしれない。
 漸く目標の半分程まで来た頃、歌い続けていることが少し辛くなってきた。
 すでに口の中は水分を求めてカラカラだ。

 ――あそこまでちゃんと歌えるだろうか。
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