My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

15.夜の合唱


 ラグの腕を引っ張りながら一生懸命に走る。
 でも気持ちとは裏腹に全然スピードが出てくれない。
 足が棒のようになるとよく言うけれど、今まさにそんな感覚だった。
 そんな自分の足にイライラする。――と、

「!」

ラグが急に足を止め、私は危うく後ろに倒れてしまうところだった。
 手を離して振り返る。

「はぁ、はぁ、……ラグ?」
「お前、本当にそれで走ってるつもりか?」

 呆れたように言われムっとする。
 これでも精一杯走っているのだと口を開きかけたが、ラグはスタスタとそんな私を追い抜きその場に腰を下ろした。

「え?」
「こっちのが早い。……早く乗れ」

 いつも以上にぶっきらぼうな言い方。

「……もしかして、負ぶってくれるの?」
「いいから早くしろよ! 急いでんじゃねーのか!」
「う、うん!」

 私は少し戸惑いながらもラグの首に腕を回す。
 ――広くて大きな背中。
 お父さん以外の男の人に負ぶってもらうのなんて初めてで、こんな時だというのに妙にドキドキしてしまった。
 と、彼の頭に乗っていたブゥがそんな私をじっと見上げているのに気が付き慌てて顔を引き締める。

(そういえば、ラグに負ぶってもらうのはこれで二度目だ。あのときは小さい方だったけど……)

 やっぱり、なんだかんだ言いながら、彼はいつも優しくて頼りになる。
 そのことがなんだかすごく嬉しくて、結局顔が緩んでしまった。
 ラグは私がしっかり背中に乗ったことを確認すると両足を担ぎすぐに立ち上がった。

「で、方向はこっちでいいんだな」
「うん! ここからまっすぐで大丈夫!」

 そして彼は私を負ぶって走り出した。


 ラグの足は本当に速かった。私を負ぶっているとは思えないほどに。
 あっという間にクラール君の家が見えてくる。

「あそこの家!」

 指差すとラグは小さく頷き更にスピードを上げた。

 ――この世界に来てすぐに一度だけ見たラグの癒しの術。
 私の傷ついた足を瞬時に治してくれた。
 ラグなら、彼の癒しの術ならきっと……!

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