My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

16.それぞれの想い


 ラウト君を先頭に、私達は夜の森の中、道なき道を走っていた。
 この暗さにも流石に目が慣れてきたのか、手を引いてもらわなくてもどうにか進むことが出来た。
 すぐ後ろにラグとセリーンが居てくれるという絶対的な安心感。
 それに、すぐ目の前を飛んでいるブゥの白い身体が闇の中でも浮かんで見えて、道しるべのようになってくれていた。

(早く、早くライゼちゃんに……!)

 ラウト君の身を案じているライゼちゃんとヴィルトさんの元へ一刻も早く戻りたかった。
 そして、早く村でのことを話したかった。
 村の大人たちを怖がらせてしまったこと。そしてあの、カルダという男のこと。
 村に残り皆をもう一度説得すると言ったブライト君のことも気になった。
 不安だらけで、気ばかりが急いでいた。

「あ、そうだ!」

 と、ラウト君が走りながらこちらを振り返った。

「ありがとうね、お姉さん」
「え?」
「やっぱりお姉さんにクラールのことお願いして良かった!」

 無邪気な、満面の笑顔で言われて私は目を見開く。

「お姉さんがいてくれて本当に良かった! ありがとう!!」

 大きな声でもう一度言って、ラウト君は満足げに前に向き直った。
 ――力が、湧いてくる気がした。
 不安は依然消えないけれど、それでもなんとか頑張れる気がした。
 彼の笑顔に釣られる様に、私も自然と笑顔になっていた。

「でもラウト君。ライゼちゃんもお父さんもすごく心配してるみたいだから、一緒にちゃんと謝ろうね」
「うん……。きっとすっごい怒られるだろうなぁ。姉ちゃん本気で怒るとめちゃくちゃ怖いんだ」

 そうぼやき心なしか肩を落としたラウト君を見てくすりと笑う。

「大丈夫だよ、ライゼちゃん優しいから。ちゃんと理由を話せば、ラウト君の気持ち、きっとわかってくれるよ」

 それは自分の願望でもあった。
 この国の人たちをとても大事にしているライゼちゃん。
 私のしてしまったことは、もしかしたらそんな彼女を失望させてしまうかもしれない。
 私に期待してくれていたライゼちゃんだからこそ、先ほどあったことを全て話すのが正直怖かった。
 でも……。

(大丈夫。ライゼちゃんならきっと、わかってくれるよね)

 走りながら、私はまだ出口の見えない暗い森の先を見つめた。

< 231 / 280 >

この作品をシェア

pagetop