My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1

2.“歌”の代償

 風が弱まり薄目を開けた丁度そのとき、トンっという軽い音が聞こえた。
 それが地面に降り立った音だとわかりホッとしたのも束の間、それまで支えてくれていた手が離れ私はお尻から落下した。

「いったた……」

 お尻を摩りながら涙目で周囲を確認する。
 そこは、白い建物に囲まれた狭い路地だった。
 人通りは無く、建物の影で昼間だというのにひどく薄暗い。
 どうやら街からは出ていないみたいだ。

 そして、目の前に立つ人物を私は恐る恐る見上げる。
 予想通り、眉間に深い皺を刻んだ“少年”がこちらを威圧するように見下ろしていた。
 確実にご立腹な様子の彼に、それでもお礼を言おうと口を開きかけたときだ。

「何を考えてんだ! あんな場所で歌いやがって、どれだけの人に顔を見られたと思ってやがる!!」

 ラグの甲高い怒鳴り声が建物の壁に反響する。
 肩をすくめながら彼が今小さな姿で良かったと思った。
 大きい方の彼に怒鳴られていたら、きっと何も言えなくなってしまっていただろうから。

「だって、酷いんだもん……。ラグだってそう思ったでしょ? あんな小さな子を」
「弱ぇくせにこの国に来たあいつらがいけねーんだ! そんなのにいちいち構っていられるか!」
「何か事情があったんだよ! ……それにあの子、銀のセイレーンとして処刑されるって聞いて……」

 それが単なる口実だとしても、知らんふりは出来なかった。

「自分が処刑された方がいいってのか? 随分とご立派だな」

 鼻で笑うように言われてムっとする。

「そんなんじゃないよ! 私だって、すっごく怖かった」
「なら出しゃばったマネするんじゃねぇ! お前に死なれるとこっちが困るんだよ!」

 再び強く怒鳴られて、私は視線を落とし唇を噛んだ。
 本当は、助けてくれてありがとうと言いたかったのに、

「……そう、だよね。ラグは呪いを解きたいんだもんね」

小さく口から出てきたのはそんな皮肉めいた言葉。
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