偽婚

出会い



ふわふわとした意識を手繰り寄せ、目を開けると、一番に見えたのは知らない天井だった。


ここはどこ?

ゆっくりと、軋んだ体を起こすと、



「目が覚めたか」


横からの男の声に、はっとした。



「安心しろよ。ここは俺の家だ」

「えっ」


いきなり現れた人に『安心しろ』と言われても、それ以前にこの人は誰なのか、何が起きて私はここにいるのか、まるで思考が及ばない。

が、そんなのお構いなしに、男は私のひたいに手を当てる。



「熱、下がったみたいだな」


あぁ、そういえば熱が出ていたのだと、遅れて思い出す私。

部屋にある壁掛け時計の針は、私が家を出た時刻から2時間も経っていることを告げている。


戸惑う私を見やり、男は息を吐いた。



「覚えてないのか? お前、俺の車の前に飛び出してきたんだよ。で、文句言ってたら急にバタッと倒れて」

「あ……」

「慌てて起こそうとしたらすっげぇ体熱くて、仕方ないから救急車呼ぼうとしたらうわ言のように『それだけはやめて』とか言うから、うちに連れてくるしかなかったんだ」
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