狂った音
piano
開け放した窓を恨めしげに眺めた。

「……うるさい」

気持ちが素直に声に出て、オマケにため息まで。

「ねぇ。『これ』なんとかならない?」
「ならないな」

こちらも見ずに生返事する大きな男。
9歳も歳上の幼馴染みの城崎 太郎(しろざき たろう)。

そして僕は康野 富美(やすの ふみ)。高校生。
諸事情につき名前だけでなく格好も女の子だが、男。

……さて。
今の状況を説明しよう。
今僕は太郎の家にいる。
そしてある事に悩まされている。

騒音だ。さっきからずっと鳴り響くピアノの音。
しかもヘッタクソで何を弾いているのか分からない。
そんなレベルの演奏を微妙な音量で延々と!

(こいつ、同じ部屋にいてなんとも思わないのかな)

僕はもう一度ため息をついて立ち上がった。

「……窓閉めてもあまり変わらないがな」

呑気に本なんか読みながら釘なんか刺しやがって。
そろそろイライラしてきて僕はそれを無視した。
立ち上がってピシャリとやたら凝ったデザインの窓を閉める。

「………」

ほんとだ。まだ聞こえる。
むしろさっきより少し酷くなってない? 気の所為?

「っていうかっ、なんなんだよ。この音!」
「ピアノ、だろうな」

(んなこと分かってんだ。この唐変木野郎が!)
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