龍神愛詞
9・独占力と嫉妬
呪から解放され、身体の傷も随分回復した。
龍王のおかげで、長い暗闇からやっと抜け出す事が出来た。
私を抱き枕のようにして眠る龍王。
ゆっくりとした寝息と鼓動。
龍王のおかげで私はここに生きている。
親からも周りの人からも受け入れられずにいた私を、救い上げてくれた。
安らぎをくれた。
居場所をくれた。
この心地よい感覚。
いつまでも、この幸せの中にいたい。

あい?
愛するという事。
愛おしいという感情。
龍王が初めて教えてくれた。
この切なくて胸がきゅうっとなる気持ち。
激しくなる鼓動。
泣きたくなるほどの幸せ。
全部龍王が教えてくれたこと。
暖かな腕の中、綺麗な顔。
私はそっと頬に触れる。
いつも怒った様な表情だけど、私を見つめる時には瞳の奥は優しくなる。
不器用な笑顔になる。
そんな不器用な笑顔がたまらなく好き。
すき。
好き。
愛おしい。
大好き。
止まらない想い。
いつしかまた幸せに包まれながら、夢の中に落ちていく。

数日後。
宮殿の中が慌ただしさを感じた。
いつもとどこかが違う。
宮殿で働く人たちがいつもより、早く動いている様に感じられた。
何かが今までとは違う予感。
優しくてどこまでの甘い時間は夢となって色褪せる。

夕食時、いつものように食卓には翡翠の他に蒼龍と紅龍の姿があった。
そこで龍王が、明日来客がくる事を告げた。
空気が怒りを含んでピリピリと痛い。
いつもより機嫌が悪いような気がする。
ここまで龍王を苛立たせる客とは誰だ?
「誰が来るんだ?」
紅龍はすぐに聞いた。
「白龍だ。」
「白龍ってたしか龍王の随分前の婚約者だろ?
同族で唯一の女。
病気でずっと寝たきりだと聞いたが。」
婚約者?
龍族の中で唯一の女性?。
「龍族にはなかなか女性が産まれないんだ。
今龍族の中で女性は白龍だけなんだ。
だから白龍は龍族にとっては貴重な存在なんだよ。
スーと会う前。
龍王との結婚話があったんだけど、かなり重い病気にかかったらしくてね。
その話も無くなったんだ。」
蒼龍が説明してくれた。
始めて聞く話し。
大きな不安が押し寄せる。
でも今さらなぜ?
今になって何故ここへ?
その不安は次の日に現実のものとなる。

次の日。
白龍はたくさんのお付きの者を連れて宮殿に現れた。
圧倒的な生まれ持つ威圧感。
その気品に満ちた表情。
余裕の表情で笑う笑顔は、大人の魅力を感じさせた。
色白で人形のように整った顔。
それはそれは、とても綺麗な女性だった。
美貌、容姿、上品な雰囲気。
どれもかなう所が見つからない。
自信に満ちたオーラが、一瞬でその場を占領する。
出迎えた龍王。
並んだ姿は本当にお似合いの二人だった。
「白龍さまこそ、龍王さまに相応しい。」
取り巻きの貴族たちはこぞって噂する。
龍王の隣を歩く白龍。
まさに絵になるニ人だった。

私はというと出迎えの人たちの一番後ろ。
人の波に押され、いつしかその場所に追いやられていた。
ここからはかなり離れた場所。
そこからニ人の様子をじっと見ていた。
歓迎ムード一式に包まれる場所。
誰からも祝福されたニ人。
自分だけが、違う世界にいるようだった。
周りは龍たちばかり、人間は自分だけという現実。
それを嫌でも突きつけられた。
いつもは龍王が側にいる事で感じる事はなかった事。
改めて守られていた事を実感する。
強い疎外感。
孤独という闇が、私の心を蝕んでいく。
もう私は必要ない?
白龍の存在が自分の存在を消し去っていく。
私の居場所が無くなっていく。
自分自身が消えて失くなる感覚。

周りの龍たちから興奮した話し声が聞こえる。
それは誰もが嬉しそう。
そして口々に。
「2人が結ばれることこそ、龍族の繁栄の象徴。」
あ!
そうか。
そうなんだ。
反する言葉が見当たらない。
龍王の相手は私なんかよりも、同じ龍族の女性の方が正しいんだ。
その人々の言葉はまるで麻薬のよう。
身体に心に静かに、そして深く沈み込んでいく。
人間の私よりも・・・。
弱く短命な私よりも。
ずっとずっとお似合いなんだ。
傷付いて心の痛みは時間を追う毎に強く激しくなっていく。
そして深い闇へと落ちていく。
龍王に相応しい相手の存在は白龍。
それほどまでにニ人の並んだ姿は輝いて見えた。

しかしその感情とは反対の気持ちを抱いていた。
安心する気持ちも同時に大きくしていた。

・・・私はもうすぐこの世界から消える!!!・・・

私はもうすぐこの世からいなくなるのだから。
消えてしまうのだから。
跡形もなく消滅してしまうのだから。
これは誰にも言えない事実。
そして哀しい現実。

連れ去れた時、父は私にもう一つの術をかけた。
呪が解かれたと同時に発動する術。
命の消滅。
魂の消失。
そこまで私の存在を疎ましく感じていた父。
最後まで父から否定されてしまった。
子どもとして見てはくれなかった。
欲しかった親としての愛と温もりはくれなかった。
諦めきった心。
それでもなぜだか涙は流れ落ちた。
諦めた筈のなのに何故?
溢れ出る涙は止めるすべを知らなかった。

親さえ見捨てたこんな私を、受け入れてくれた龍王。
今まで、本当にありがとう。
感謝してもしきれないものを沢山くれた。
幸せという感覚を感じさせてくれた。
龍王には幸せになってほしいから。
龍王はこれで大丈夫。
私がいなくなっても。
龍王の側には白龍がいる。
みんなが認める存在。
一人ではない。
もう孤独になる事はない。
もう孤独を感じる事はない。
孤独を感じる中、孤独から抜け出した龍王を見つめた。
そこに歩み続ける二人の明るい未来を見た気がした。
それは眩しすぎる光。
私には望めない光。

龍王は辺りを見回す仕草を見せた。
もしかして私を捜してくれているの?
急にいなくなったから心配してくれているの?
でも・・・。
この状況で私が出て行く勇気はない。
どう考えても私の場所はここにはない。
今すぐ消えて無くなりたい気持ちになった。
私はなぜか、とっさに建物の影に隠れた。
その場の人々に押されるようにして移動し始める。
遠ざかっていくニ人。
そして大勢の人たちと、共に大広間に入って行った。

白龍は龍王の住まう本殿のすぐ隣。
いつもは来賓用に使う、その建物に住むようになった。
龍王が公務から終わる頃に現れ、何かと世話を焼く白龍。
何か理由をつけては、龍王の部屋に入り込み時間を過ごす。
そんな日々がしばらく続いた。
そして囁き始める言葉。
周りの貴族たちは白龍との結婚を進めてくるようになっていった。
龍族にとってはこの上ない、申し分のない結びつき。
誰も反対する者などいる筈はなかった。

龍王は白龍の性格を良く知っていた。
自分が無視すれば、矛先は翡翠に向けられるだろう。
どんな手段で翡翠の身が危険にさらされるか分からない。
蒼龍と紅龍が側についてはいるが、それも安心できない。
それほど白龍の性格は危険な龍だった。
白龍が来て以来、翡翠に会えない日々が続く日々。
苛立ちは積もるばかりだ。
もう少し白龍の方が落ち着くまで待つしかない。
普段は何も無関心な龍族。
だが、一旦気に入り執着するとそれを覆す事は難しい。
白龍の私に対する私への執着は激しいものだった。
今はその攻撃が翡翠に向かない為に、それなりの態度を取り続けるしかない。
いつも不器用で、言葉の少ない龍王のこの行動。
それがこの後、深刻な誤解を招くとは知らずに。

宮殿の大広間から明るい音楽が流れてきた。
あれから白龍を迎えての歓迎パーティーが毎日のように行われた。
翡翠は部屋のバルコニーからそれを見つめていた。
白龍が来てからパタリと姿を見せなくなった龍王。
翡翠は少し遠い場所、高い場所から見下ろす。
そこは、気付かれる事なく大広間が見渡せる場所。
ここから龍王の姿を捜す。
たくさんの貴族たちが音楽に合わせてダンスをしていた。
大広間の中央、2人が踊る姿が見えた。
龍王・・・。
白龍の腰を抱き踊る龍王は、まるで別人に思えた。
龍王は龍族を統べる存在。
私は・・・・。
私はただの人間。
私はか弱き人間の巫女でしかない。

龍王との遠い距離。
この数日でこんなにも遠くなってしまった。
今まで感じていた、近くでずっと側にいて感じていた温もり。
今は寒く、凍える心は、身体は震えていた。
暖かさを知ってしまった私の身体は龍王を恋しがった。
抱きしめてほしいと震えていた。
しかし今はその温もりはない。
ただ自分の身体を小さく丸める事しかできなかった。

「こんな所で何をしている?
人使いの荒い龍王が様子を見てこいと・・ん?」
様子がおかしい事に気付いた紅龍。
ぐいっと肩を両手で掴み、自分の方に身体を向かせる。
しばらく私を見ていた紅龍が眉をしかめて言った。
「お前から死の匂いがする。」
驚いた表情のスー。
なぜ、分かったの?
私は誰にも言ってないのに。

「何かを隠しているだろう?」
「何もありません。」
明らかに動揺した様子。
「俺の国の龍たちは好戦的な種族だ。
いつも死と隣合わせに生きてきた。
死の匂いを嗅ぎ分けられる。
だから隠しても分かる。
本能的に身についた俺の感が教えている。
何か隠してる事があるだろう。」
確信に触れられ言葉を失う。
俯く翡翠。

すると優しい声が聞こえてきた。
「これでも俺はお前を気に入っている。
俺はお前の中の強さに憧れている。
好意をもってる。
お前の事が気になって仕方がない。」
告白にも似た言葉。
真剣な声。
今の紅龍には嘘は通用しない。
「お願いだ。
話してくれ。」
柔らかな口調から、翡翠を本当に心配している事が理解できた。
紅龍の真っ直ぐ気持ち。
それが翡翠が隠していた事実を、言葉にする勇気をくれた。
私は観念したように、ぽつりぽつりと話し始めた。

もうすぐ迎える死について。
それに対する経緯。
最後まで子どもとして愛してくれなかった父の事。
そして、龍王と白龍の未来。
龍族にとっての未来。
最後に、龍王に対する溢れんばかりの気持ち。
紅龍は静かに佇み、話しを聞いていた。
「私の願いはただ一つ。
龍王の幸せ。
それだけです。
それだけなんです。」
不意に包まれる温もり。
これは紅龍の温かい体温。
翡翠は紅龍に抱きしめられていた。
龍王ではない匂い、温もり。
温もりを欲する身体と心。
紅龍の腕の中で戸惑う翡翠。

「俺と来るか?」
頭の上から先程よりも、もっと優しい声。
真剣な目が私を捕らえる。
「ここにいたら辛いんだろう?
俺が連れ出してやろうか?」
ここから離れる?
龍王から離れる?
その方がいいの?
揺れ動く気持ち。
さっきまではニ人が幸せになってほしいと思ってた。
でも本当に龍王から離れる事になったら・・・?
紅龍なら私をここから連れ出す事が出来るかもしれない。
紅龍に付いていけば龍王は幸せになる?
色々な想いが交ざり合い混乱する心。
何も言えずに立ち尽くす。
涙だけが溢れでる。
別れを決断する事がこんなにも苦しいなんて。
身体が心が全ての感情が、痛いという感覚に集約されていく。

「泣くな。
そんなに泣くくらい辛いなら、なぜ龍王に話さない。」
「白龍がここに来てから、龍王はここに姿を現してくれなくなりました。
私はもう必要ない存在なんだと思います。
あれからニ人の並んだ姿を見てずっと思っていました。
龍王には白龍の方が相応しい相手だと。
ニ人が結ばれる事が龍族にとっては喜ばしい事。」
そして翡翠の思いは悲しいまでに真っ直ぐに。
いつでも龍王だけに向いている。
心変わりとも取れる龍王の態度。
それをそのまま受け入れても、なお。思い続ける。
「私はもうすぐいなくなる。
いらない心配はかけたくないのです。
龍王の幸せが私の幸せなの。」

温かいものが唇に感じた。
紅龍からの口づけ。
翡翠の健気さに思わず理性を失った。
生まれて初めての執着心。
紅龍にとっての初めての感情。
翡翠に会ってからずっと持っていた、名前のない感情。
それは知らぬ間に少しずつ膨らみ続け、そして爆発した。
・・・スーを自分の者にしたい・・・
・・・自分だけの巫女にしたい・・・
翡翠の中にある強さへの憧れ。
それが日増しに大きくなる。
それはやがて翡翠そのものへの好奇心に変わった。

翡翠が自分以外の異性に対して涙する姿。
それを見た時、抑えきれなくなくなった感情。
俺の剥き出し独占欲。
それが身体を無意識に動かした。
気が付いた時には自分の唇を押し当てていた。
俺を見てほしい。
俺だけを見てほしい。
他の男の事でそんな悲しむな。
そんな辛い顔をするな。
俺なら、そんな思いはさせない。
ずっと腕の中に閉じ込めておくのに。
悲しい涙は流させない。
そして誰も触れさせはしない。

少し乱暴な口付け。
だが、その時の翡翠の不安定な心はそれを受け入れていた。
目の前の優しさに甘えたかった。
何かにすがりたかった。
この底知れぬ恐怖を少しでも忘れたかった。
迫りくる死への恐怖。
迫りくる未来のない現実。
その後も流れる涙に何度も口づけをする紅龍。
少しでも不安を取り除く為に。
紅龍の優しさが素直に嬉しかった。

!!!!!
その時木陰から突然現れた龍王。
ニ人の様子を見ていたのか、凄い形相で翡翠に近づく。
「スーは紅龍の方がいいのか!!?」
いつもと違い乱暴に肩を掴む。
「私よりも紅龍を選ぶのか?」
怒りを含んだ態度。
口調。
何もかもが遠い昔に、父親や周りの人たちから受けていた恐怖が蘇る。
怖い。怖い。怖い。
龍王から初めて恐怖を感じた。
怖くて何も言えない私。
身体が固まって動く事も声を発する事も出来ない。
しかしその沈黙が、また龍王の誤解を生む。
しびれを切らした龍王。
「もうわかった!
これからはもう勝手にするがいい。
私はもうお前を解放してやる、どこへでもいくがいい。
もうニ度と私の前に顔を見せるな!!」

少し離れた所に白龍の姿があった。
「白龍いくぞ!!
夜は長い。
たくさん愛してやる。」
朱く染まる顔で俯く白龍。
白龍と共に視界から消える龍王。
もう二度と振り向く事はなかった。
「待て!!」
追いかけようとする紅龍の服を掴み止める翡翠。
涙に潤んだ目。
しかしその目の奥には強い意志があった。
それは紅龍の翡翠が惹かれた心の強さだった。
翡翠は首を横に振る姿。
それは何も言わないでという意味での仕草。
紅龍はそれ以上何も言えなくなってしまった。

・・・これでいいんだ・・・
・・・私よりも同族である白龍と結ばれた方がいい・・・
・・・その方が龍王は幸せになれる・・・
・・・こんなか弱い人間なんかよりも・・・
・・・同じ時間を過ごして行ける白龍・・・
・・・私を暗い闇から救い出してくれた龍王・・・
・・・龍王の幸せが明るい未来が、私の幸せ・・・
・・・たとえ龍王の隣が私でなくても・・・。
・・・これで大丈夫・・・
・・・もう私でなくても大丈夫・・・

完全に二人の姿の見えなくなった。
途端、翡翠の身体は力を失いゆっくりと後ろに倒れていく。
それを支える影。
気を失いそうな翡翠を、後ろから支えてくれる人影が現れた。
「なぜ言わないんだスー。
こんなになるまで我慢して。
ずっと泣いていたんだね。
気が付いてやれなくてごめんね。」
「蒼龍?」
「紅龍のすぐ後から来ていたんだけどね。
なんか出ていくタイミングを逃してね。
話しは後ろの方で全部聞いてた。」
そうか。
蒼龍にも知られてしまったんだね。
「心配ぐらいさせてくれないか。
何も知らない方がもっと辛い。」
「ごめんね。
私ね、もうすぐ消えちゃうの。」
無理して笑う顔が痛々しかった。
今度は蒼龍が抱き寄せた。
翡翠の幸せは透明な涙と共に、こぼれ落ちていくようだった。
いくつもいくつもそれは地面に落ちては吸い込まれては消えた。
まるでこの先の姿を予見するかように。
それは跡形もなく、静かに消えていった。

紅龍の腕で泣いていた翡翠。
泣きながら口づけを受け入れていた姿。
それを見た時の驚き。
狂おしいばかりの嫉妬。
激しい怒りが私の全身を駆け抜けた。
私がこんな愛しているのに。
私がこんなに大事にしているのに。
白龍から危害がないように監視する目的。
その為に私が我慢してまで白龍についていたのに。
これは全部翡翠の為だ。
私が自ら動くのはいつでも翡翠に繋がっている。
なのに、どうして!!
どうしてだ!!!
お前は私よりも他のやつを選ぶのか。
嫉妬。
報われない愛。
もどかしさ。
憎悪。
それが今の龍王の心を激しく占めるもの。

白龍を抱きしめながら、何も言わず立ち尽くしていた翡翠の事を思い出していた。
泣いているでも、笑っているでもない表情。
あれは初めて会った頃、時々見せていた諦めた表情だった。
じっと自分の気持ちを押し殺した無表情な顔。
しかしその時冷静さを失っていた龍王には全く見えていなかった。

ただ翡翠が側いるだけで全てが満たされた。
男の欲望などはどこかに飛んでいた。
触れるだけで、口づけだけで、心から癒された。
やっと手に入れた翡翠。
大事にしたかった。
自分の汚れた欲求だけで、翡翠を抱きたくはなかった。
身体は一度も繋がってはいないが、心は繋がっていると安心していた。
翡翠も自分と同じ思いでいると信じていた。
それなのに!!!!
龍王は嫉妬という熱すぎる感情から冷静さを失わせた。
そしていつもの判断力を完全に失くしていた。


白龍。
白龍は婚約者として、龍王の横に立つべき龍だった。
たった一人の女性の龍。
強い子孫を残す為、強い男に惹かれるのも自然の摂理。
白龍は一目見て、龍王の中に潜在的な強さに気付いた。
それ故に執着し、婚約者と言う立場に固執した。
しかしその後、かなり重い病気になったと聞く。
そして同時に婚約者の話も無くなった。
それは白龍という種族からの一方的な申し入れ。
詳しい事は分からない。
子供の産めなくなった白龍は、永い闘病生活を送る事になる。

白龍は龍王と言う地位と強さに惹かれたのだ。
龍王はすぐに忘れてしまったが、白龍は忘れる事は出来なかった。
もう一度、龍王の横に立ちたい。
身体の全てで龍王を感じたい。
誰にも譲りたくない。
歪んだ愛が時間をかけて加速していった。
そしてやっと、ある事を引き換えにして完治する事となる。

そしてその頃には、人間の巫女の存在がある事を知った。
・・・龍王は私の物よ・・・
・・・人間の分際で横に立とうとは・・・
・・・許さない!!!・・・
そして白龍は龍王の下にやってきた。
自分の居場所を取り返す為に。

白龍は嬉しそうに龍王にすり寄る。
白龍とは肌を重ねる今の行為。
身体の欲求は満たされていく。
白龍の甘い声。
動くたびに声は高くなっていく。
しかし何度果てても、心は満たされる事は決してなかった。
心だけは置き去りのまま。
私の心をも満たしてくれるのは、やはり翡翠だけだ。
分かっていながら身体は、また次の欲望を生み出す。

狂おしい嫉妬が龍王の未来を曇らせた。
それが、この先さらに哀しい事実が待っていようとは思ってもいなかった。
暗い闇の中。
一つに溶けあった影。
龍王と白龍の熱い吐息が溶けていく。
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