冬の王子様の想い人
それでも……冷たい人ではないと思う。


そっと昨日掴まれた左手首に視線を落とす。そこには跡もなにも残っていない。

触れる時、力をきちんと加減してくれていたのだろう。不機嫌そうでイラ立っていたけれど、脅されたり、無理強いはされなかった。

言葉や口調はきつくても、触れる指は優しく、仕草にも冷酷さは感じなかった。

羞恥と緊張で居たたまれず、言われた言葉にカッとなって逃げ出してしまったけれど、不思議と恐怖は感じてなかった。

一連の出来事を思い出すと、なぜか胸の奥がざわめいた。


「ちょっとナナ、聞いてる?」

急に黙り込んだ私を訝しむように梨乃が声をかけた。


「あ、うんっ聞いてる!」
「おはよう、ショートホームルーム始めるぞ! 席について」

大きな音を立てて教室のドアが開き、タイミングよく担任の先生が教室に入ってきた。

思い思いに話していたクラスメイトたちは自席に一斉に戻り、そっと胸を撫でおろした。
< 19 / 154 >

この作品をシェア

pagetop