冬の王子様の想い人
「昨日の件はこれで許すよ。俺がナツの話をしたのは周囲の心ない噂でナナを傷つけられたくないからで、それ以外の理由も想いもないから」

妖艶な眼差しを向けられて、心がかき乱される。


それは気にするなということ?


満足そうな表情を浮かべる王子様が少し悔しい。でも彼の言葉はほんの少し心を軽くしてくれた。


早めに家を出たのに、いつもの電車にぎりぎり間に合う時間になってしまった。
車内で待ち構えていたような楠本くんに根掘り葉掘り聞かれて、からかわれたけれど雪華は涼しい表情で接していた。

梨乃は雪華の行動を聞いていたのか、複雑な表情をしていた。

教室に着くまで繋がれた手はそのまま離されることはなかった。


「ねえ、氷室くん。どうして原口さんと恋人つなぎしてるの?」

普段女子生徒からの質問には無愛想でほとんど答えないくせに、この時ばかりはなぜか嬉しそうな表情を浮かべる彼に嫌な予感しかしない。


「ナナは俺のものだって皆に伝えたいから、かな」


その返答に質問した私のクラスメイトは茹でだこのように真っ赤になった。周囲の女子生徒たちはキャアと黄色い歓声と悲鳴を上げる。


「雪華っ」
「本心だけど?」


しれっと言って絡めた指を引き寄せて私のつむじに小さなキスを落とした。

周囲はもう大騒ぎで収集のつかない状態になっている。


「雪華!」


焦って大声で叫ぶと耳元で呟かれた。


「牽制は必要だから。俺は誰にもナナを譲らないよ? これから毎日帰りも迎えに来るから逃げるなよ?」


物騒な言葉遣いとは裏腹に、髪を優しく耳にかけなおし、やっと手をほどいてくれた。

反論もできずに、自身の教室に向かうご機嫌な姿を呆然と見つめていた。



「……王子様の本気はすごいわね」

梨乃が呆れたような声を漏らしたが返事はできなかった。
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