涙、夏色に染まれ
五.マリンブルーの未来図
 真節小の校門のところに、二つの看板が設置されていた。立ち入り禁止と大きく書かれた看板と、工事の内容を説明する看板と。

 校門とはいっても、門柱が両側に立っているだけだ。門が閉ざされることもなければ、学校の敷地を囲う塀も何もない。さえぎるものが本当にないから、校庭から飛び出したボールが道を越えて、海へと転げていったことが何度もあった。

 あたしたちが校門の外に出ると、工事の作業服の男の人たちが、「ごめんね」と言いながら、低いバリケードを作った。長い間ずっと開きっぱなしだった真節小の門が、今、初めて閉ざされた。

 明日実と和弘は自転車を回収して、大人たちがたまっているほうへ歩き出した。校舎の裏手の、アスファルトが道幅よりも広くなった場所。そこはもともと、先生方が使う駐車場だった。

 駐車場の向こうに、かつてあたしが両親と一緒に住んでいた教員住宅がある。見るともなしに、教員住宅のほうを見ていたら、まだ涙声の明日実が、気を利かせて説明してくれた。

「結羽たちが引っ越した後、半年くらいしたころに、移住者が来てあの家に住み始めたと。何かね、芸術家の人らしくて、月の半分は留守にしちょっけど」
「移住者?」
「うん。最近、島に移住してくる人、けっこうおるとよ。新しく仕事ば始めたり、農業ば手伝ったり。小近島にはまだあんまりおらんけど、漁業がやりたか人がおったら、うちに来てもらえたらな」

「そういう移住って、どんな人が? 都会から来るの?」
「都会っていうか、このへんよりいなかの場所って、なかやろ?」
「確かに」
「いろんな年代の人が来よっけど、三十代の人がいちばん多かったっちゃなかかな。実はね、うちの仕事にも、ときどき、見学の人が来ると。そういうとき、うちが案内するとよ。女の子にもできる仕事やけんっていうアピールでね」

 うちは特別製の怪力ガールやけどね、と、明日実はおどけてみせた。泣き腫らした目元は真っ赤だ。
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