先生の全部、俺で埋めてあげる。



「じゃあ、私帰るわね。
里巳くんもあんまり遅くならないようにね」


そう言って、俺に背を向けてどんどん遠くなっていく先生。


今日はいつもにも増して、この時間が名残惜しいのは、やっぱり夏祭りに何かを期待してしまっているからだろうか。


屋台で偶然会ったりして、あばよくば一緒にまわったりして。


成り行きで花火も一緒に見てくれちゃったりして。


そもそも行くかすらも分からないのに、そんな妄想が膨らんでしまう。




はぁとため息をついて顔を上げると、さっき先生が座っていた場所にペンが置きっぱなしになっていることに気づいた。




先生が忘れていったんだ。


今ならまだ間に合うかも。


そう思って急いで先生の後を追った。


せめて、もうちょっとだけ先生と一緒にいたいと思ったんだ。



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