私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第五章・クラプション
 ゆりは荷台の風除け布から景色を覗いた。
 高い岩山が目の前に迫るように聳え立ち、山頂が微かに白んでいる。

「見えてきたぞ」

 馬の代わりの、巨大なワニのような、トカゲのような、オレンジがかった黄金色のドラゴンの手綱を握りながら、ひげの生えた中年男性が振り返った。

「クラプションだ」
 男性はにっと笑うと、前へ向き直った。

 ゆり達一行は、隊商の荷台に乗せてもらっていた。
 ユルーフで雪村が隊商一行と仲良くなって、ちょうどクラプションを通るというので、乗せてもらう事になったのだ。

 そのおかげで、当初の予定よりも半分近く早く着く事になった。
 ゆりとしても歩かなくて済むし、荷台やテントで、雑魚寝といえども寝れるのでありがたい事この上なかった。

(これも雪村くんのおかげだな)

 ゆりは居眠りしている雪村をちらりと一瞥し、立ち上がって、御者台から見えてきたクラプションの町を覗き見た。

 クラプションは高い塀に囲われ、切り立った岩山を背にしていた。正面には、広々とした道を挟んで、比較的急な坂になっていて、その先には湖があるようだった。

 城塞都市の周辺には、農家だろうか。家が所々に点在している。
 車輪が石を弾いて、荷台が揺れた。
 ゆりは少しよろけると、御者台から目を離し、そのまま床に腰を下ろすことにした。
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