私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第九章・内密談義
 クラプションを出立した風間は、四日後、サキョウへとついた。
 門を抜けると、街のあちこちから白煙が立ち昇っているのが見える。

 サキョウは功歩では大変珍しい温泉郷の観光地として知られ、栄えていた。故に、立ち昇る白煙は温泉から出る湯煙であった。
 風間はその湯煙を一瞥して、街を眺める。

 開けた一本道が続き、土産物屋が建ち並んでいた。温泉の熱を利用して発酵させたパンを売っていたり、燻製の好い匂いが漂ってきたが、風間はそれらに目を向けることも、立ち止まることもなく、喰鳥竜に跨ったまま、真っ直ぐに小高い丘の上の城を目指した。

 小高い丘を登ると、眼下に先程通ってきた街路が見えた。このサキョウには町を囲う塀はなく、賑わう街の先にぽつぽつと家が建っているのが見える。畑が広がっている事から、農家の家だろう。

 風間は城へ向き直った。
 門の前には二人の門番が胡乱気な顔をして風間を見据えている。
 風間が門番へ近づくと、門番は途端に表情を険しくした。

「何奴だ?」
「クラプションから参りました。風間と申します」

 にこりと笑んで、風間は内ポケットから小さな巻物を取り出して門番に差し出した。
 門番の一人がそれを開くと、うん、と小さく頷いて巻物を風間へ返した。

「通ってよし。喰鳥竜はこちらで預かろう」
 風間は小さく会釈して喰鳥竜から降りると手綱を門番へ渡し、巻物を内ポケットへと閉まった。

 この巻物には、風間の功歩での身分を保証する旨が書かれていた。功歩政府から発行されたものだ。
 個々に入国証を持たない三条家にとって、個別に行動するさいに功歩国内での入国証代わりになるものだった。

 風間が城の中へ入ると、玄関付近に初老の男が立っていた。
「お待ちしておりました」
「針翔殿。久しくお目にかかります。わざわざ出迎えてくださったのですか?」
「ええ。こちらこそ久しぶりにございます」

 男は頭を深々と下げる。
この針翔(バリショウ)と呼ばれる男はサキョウ領主、或屡の右腕と呼ばれる補佐官であった。

「ご足労願って申し訳ない、風間殿」
「いえ。とんでもございません」
 風間は愛想良く笑って小さく手を振った。
「では、こちらへ」
 お互い形式上の挨拶を済ませて、針翔の案内のもと、風間は廊下を進んだ。
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