何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「次の者!」

説明が終わり、次々に妃候補は呼ばれて、その道があるであろう場所まで連れていかれる。
そして、そこにある扉の奥へと一人また一人と消えていく。

「はーい。じゃ、行ってくんねー。」

ついに、華子の番になった。
華子はいつものと変わらない、ひょうひょうとした様子で、二人に手を振った。

「がんばってね。華子!」

そんな華子に、天音は声をかけた。
いくらライバルでも、華子にはやっぱり残ってほしい。
なんたって、ここでできた友達の一人なのだから。

「ここで、お別れになるかもね。」

しかし、そんな天音に水を差すように、星羅はいつもの調子で、そんな憎まれ口を叩く。

「でた!また星羅の嫌味!」
「そうならないようにって事。」

しかし、華子も天音もわかっていた。
これが星羅なりの励ましだという事を。

「はいはーい。」

いつも通りの様子の二人のやり取りを見て、思わず天音は笑みを浮かべた。
そして、華子は後ろを振り向くことなく、兵士についてその部屋を後にした。

「次の者。」
「ハイ。」

そして、次は星羅の番。

「星羅!がんばって!」

天音は、星羅にも華子と同じように声をかける。

「あなたの方が、ずいぶん緊張しているみたいだけど?」

余裕の星羅には、やっぱりそんな天音の様子などお見通しのようだ。

「だって私が一番最後なんだもん。」

天音が口を尖らせて、不満気にそうつぶやいた。
そう、天音の順番は、妃候補の中で一番最後だ。
この順番のせいで、嫌でも緊張が増してしまう。

「ま、へましないように。」

そして星羅も天音を残し、この部屋を出て行ってしまい、天音一人がそこにポツリと残された。
そんな天音は、緊張感はいつしか薄れ、なんだか寂しいような心細いような感覚に陥っていた。
< 113 / 339 >

この作品をシェア

pagetop