何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「で、俺に何しろって?」

京司は、この国の政を行う重鎮達、宰相や宦官達が集まる、会議室のようなだだ広い部屋に呼び出されていた。
この国の政権を握っているのは、実質的に宰相だ。
表向きは、宰相は天師教の補佐的役割だったが、今では政治にはまるでど素人の京司の代わりに、彼がこの国の政の決定権を持っている。
そして周りの者達も、ほとんどがその宰相の言いなりだった。

「天師教を信じろって?そうすればこの国は安泰ー。ハハハ。」

京司はバカバカしいと言わんばかりに、心なく笑った。
この部屋に呼ばれた京司が、彼らから提案されたのは、天使教に反乱を止めるように、演説をしてもらう事だった。
この国は、天師教が絶対。天師教に背く事など許されない。反乱を起こすなど、もってのほか。
その事を、国民達に釘を刺すための演説を企画していたのだった。

「何がおかしいのです?」

宰相は、京司のバカにするようなその笑い声に、思わず眉をひそめた。
この場で宰相に歯向かう事が出来るのは、彼一人。

「嫌だね。」

京司は、彼らには簡単に従おうとはぜず、席を立ち、扉の方へと向かった。
京司にはわかっていた。反乱軍がそんな事で、止められるわけがない事を。
そして、演説なんてしても何の意味もない事を。

「天師教様!!」

宰相の隣に座っていた宦官が、怒りを露わに天師教の名を呼ぶが、京司にはその声は届かない。

バタン

そして、扉は大きな音を立てて、無常に閉じられた。

「まったく。あの坊ちゃんは、どこまで子供なんだ!」
「まったくだ。あの者が天師教様では、収まるものも収まらない。」

宦官の怒りは収まる事はなく、声を荒げて怒り出した。
また、宰相の言いなりである、その場にいた他の者達も、京司のいなくなった今、本音を口にし始めた。
天使教の前ではご機嫌をとっていても、本音では、自由奔放な京司の存在は、目の上のたんこぶでしかない。
京司の味方など、ここには一人もいない。

「黙って、こちらの言う通りにしていればよいものを…。」

とどめの一言を、宰相が低い声でつぶやいた。

< 164 / 339 >

この作品をシェア

pagetop