私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
第八章・仲直り

 彼は怒ったような表情をした。
 むっとして、眉間にシワを寄せて。だけど、それはひどく悲しそうにも見えた。下手をすると、泣き出しそうな、それでわざと怒ったような、そんな表情。

 きっと私は彼を傷つけた。
 だけど、どうしてなのか分からない。
 だって、キレイだったんだもん。

 夕日のやわらかな陽光が、金色の髪と長いまつげに解けるようで、とてもキレイだった。透けるような白い頬も、夕日で淡く紅く色づいて、すごく絵になった。
 それで、つい口が滑った。
 だけど、貶したわけじゃない。
 素直に褒めただけなのに、それでなんで傷つけてしまったんだろう?

 男の子に〝キレイ〟なんて言ったのがいけなかったの? それで不愉快にさせてしまったの?
 だけど、それだけであんな表情をさせてしまったとは、どうしても思えない。
 クロちゃんのことが、もっと知りたい。
 傷つけてしまった理由を知って、謝りたい。
 そうは思うけど、どうしたら良いのか分からない。

 あれから私が帰宅すると、クロちゃんは自室に篭っていた。
 すぐに謝ろうと思ったけど、どうしてもドアをノックする勇気がもてなかった。
 翌朝にしよう。
 そう思って、クロちゃんが起きる時間を待った。寝る気にはなれなかったから、一晩中起きていた。クロちゃんが階段を下りる音がして、私は駆け出した。
 おはようと挨拶をすると、クロちゃんも、おはようと返してくれた。
 まるで何事もなかったように。
 
 にこっと笑って、朝食は? と訊かれて、私は固まってしまった。切り出して良いのか、迷ってしまった。
 ここで切り出して、クロちゃんをまた傷つけたらどうしよう。
 不快にさせて、嫌われたらどうしよう。
 そう思うと、何も訊けなかった。
 ごめん、の一言も言えなかった。
 私は、笑った。
 一生懸命笑顔を作って、朝食はパンが良いと答えた。
 彼は笑顔を返して、パンを切り始めた。
 その背中を見て、私は唐突に気づいたんだ。
(ああ、私……クロちゃんが好きだ)
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