私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
第二章・凛章での暮らし
 凛章で暮らすようになって、二週間が経った。
 私はクロちゃん宅の二階に住まわせてもらっている。二階には部屋が二部屋あって、納戸が一つある。階段を上がってすぐの部屋がクロちゃんの自室で、その左隣が私の部屋。右隣が納戸だ。
 一階は、階段を下りてすぐにリビングがあり、暖炉と、ソファと、小さなテーブルと椅子が置いてある。

 暖炉の側には鳥籠に入った火打竜(サラファイア)が気持ち良さそうに眠っている。倭和の屋敷にいるときに台所で見たドラゴンだ。カマドやランプなどの照明に火を点けるのに飼っている家は多いんだとか。人懐っこくて、餌と火を起こす以外は四六時中寝てるみたい。
 ちなみに、家具は全部備え付けだったんだそうだ。
 
 地続きで台所があるけど、そんなに広くない。階段の向こうにこじんまりとしていた。
 リビングの奥にはトイレとお風呂場がある。両方ともわりと狭くて掃除がしにくい。
 トイレとお風呂場を挟んで廊下があって、その先が玄関だ。トイレのすぐ横に、申し訳程度の納戸がある。そこにトイレの掃除用具や、ほうきやお風呂掃除の雑巾、桶などが整頓されて入っている。
 それと違って、二階の納戸は、三畳程の広さがあったけど一階と違って空だ。見事にがらんとしている。
 
 何か買ったときに、入れる場所が無かったら勝手に入れて良いと言われているけど、特に買う物はない。食費を貰ってるけど、それを食料以外に使うのも憚れた。

 だから私、実はいまだに制服だったりする。
(ううっ。いいかげん着替えたいなぁ……)
 洗濯機の代わりに選択してくれるドラゴンがいるんだけど、口の中に放り込まなきゃいけないし、お店に行かなきゃいけないからお金がかかるのよね。

 クロちゃんが三日に一回溜まった洗濯物を持って行くから一緒にお願いして、その時はバスローブで過ごすんだけど、それがまたなんとなく慣れないのよね……。
 
 クロちゃんと暮らしてわかったことだけど、クロちゃんはキレイ好きだ。
 この家に来て最初にした事は掃除だった。
 半年の遠征と倭和への出国が重なり、家は大分埃まみれだった。
 掃除と洗濯で初日が終わってしまった。それはまあ、分かるんだけど。
 朝五時に起きて、彼が真っ先にすることはリビングの掃除だ。
 毎日リビングとトイレ掃除、お風呂掃除を朝の内に終わらせて、朝六時に朝食。食事は私も作った事がないし、クロちゃんも作らないらしいので出来合いの物を食べて、六時半には出勤して行く。

 それが判明してからは、一応置いてもらっている身としては何もやらないわけにも行かず、クロちゃんの部屋以外は毎日掃除をすることになった。と言っても、そう決まったのはほんの一日前からだけど。

 クロちゃんは別に構わないと言ってくれたけど、元の世界へ帰るまでの拠点に使ってやれという下心を除いても、食事を買いに行くだけでは申し訳なさが先に立ってしまって、居心地が悪い。

 ちなみにクロちゃんの朝と違って私の朝は遅い。
 早い時は八時に起床し、遅い時は十二時まで寝てる。平均が十時だ。
 そんな時間に起きていたので、クロちゃんが何時に起きて、何をしてたかなんて昨日までは知らなかったわけなんだけど……。
 たまたま昨日朝早く目が覚めて、それで知ったのだ。
 私だって、同じ時間に起きて、彼の見送りをした方が良いのは分かってる。そんな事は、百も承知だ。だけど、起きれないのだ。
 どんなに早く寝ても、睡眠を貪るのを辞められない。
 こればっかりは、子供の頃からの悪い癖で、いまだにに直らない。

 そりゃ、私だって旅先とか明日はテストとか、そういう緊張感や緊迫感があれば、ちゃんと起きられるんだけど、いかんせん、この家は思った以上に居心地が良いんだもん。
 派手な飾りもなく、地味な感じが落ち着くし、石造りの家なんて初めてだけど、暖炉に灯が燈ると、なんだかすごくマッチしていてうっとりしてしまうし、二階の私の部屋は、入ってすぐに窓があって、南に面しているから、昼間は日の光で温かく(これ、夏は暑そうだけど)つい、うとうとしてしまったり……。

 私の部屋には、ベットとタンスとランプしか置いてないけど、ベットが落ち着いたアンティーク調で、可愛いんだ、これがまた。
 タンスは白い少し古びた物で、でもそれがまた味があって良い感じ。という具合にこの家は居心地意が良い。
 ので、ついつい寝てしまう。
 
 そんな生活をしていると堕落するもので、日がな一日ゴロゴロする日々。これじゃいけないと思っても、気がつくと日が暮れかかり、急いで夕食を買いに行く毎日。
 これじゃあ、いつまで経っても帰り道を見つけられそうもない……。
「よし!」

――今日こそは絶対なにか行動を起こすぞ!
< 9 / 146 >

この作品をシェア

pagetop