私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
第六章・所陽へ
 私達は、黙って歩き続けた。
 道中、風間さんは私を気遣う視線を幾度か送った。

 私はそれに答える事ができず、目線を伏せたままだった。
 結局朝食は摂れず、お昼になり、風間さんが岩の上に糒と豚竜の干し肉がを乗せた風呂敷を広げた。
 糒はすでに水で戻されて冷やご飯状態になっていた。

「どうぞ」

 差し出された糒と干し肉を見て、私のお腹がぐう、と音を立てる。
 こんなときでも、人はお腹がすく。

 嫌になるような、ほっとするような、複雑な心境で食事を受け取った。
 米のどことなく甘い匂いと、干し肉の微かな香ばしさ。

 食べ物の匂いを嗅ぐと、なんだか少しだけ気持ちが晴れたような気がした。
 糒を頬張ると、微かに甘さが広がる。

 最初に食べたころなんて、米の味しかしなかったのに。

 なんだかまた泣き出したい気持ちに襲われた。
 それを、ぐっと我慢する。

 なんだか、無性にお母さんに逢いたい。

 鼻を啜って、前を見た。
 その先に、白いマーガレットに似た花が一厘咲いていた。
 緑の草と、白い花、そこにブーンと蜜蜂が飛んでくる。
 そんな光景をぼんやりと見つめて、
 生きなきゃ。
 何故か、そう思った。
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