私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
第十章・山賊
 朝六時。天秤の刻。
 私達は足運屋の前にいた。
 目の前には、トカゲとワニが雑ざったようなドラゴンが一匹、荷台を積んで立っていた。四足竜だ。

「大きい」

 見上げると思わず声が出ちゃうくらい大きい。
 四足竜は何度か見たことがあったけど、間近で見ると桁違い。恐竜なんじゃないかと思うくらいだ。

 肌がオレンジ色と、黄金色をしていて、太陽光によって色が変わる。テカテカしていて、もろ、爬虫類って感じ。

 全長は三メートルくらいで、高さは私より少しだけ下なくらいだから百五十六センチくらいかな。
 四足竜にはもう荷車が取り付けられている。長さと幅は二メートルくらいで、天井が高い。屋根と壁は一枚の大きな布で張られているけど、長さが足りてない。数十センチ隙間が空いている。

 中を覗いてみると、両端に長椅子があり、どうやらその隙間から外のようすが窺える仕組みになっているみたいだ。

(わくわくする。はやく乗ってみたいなぁ!)

 でも、十分、二十分経っても乗車できなかった。
 ひたすら馬車、ならぬ四足竜車の前でお預けを食らう。
(なんで、こんなに乗れないの?)
 不満たらたらで腕組みすると、となりで風間さんが呆れ混じりに呟いた。

「……やはり、瞑の者は暢気ですね」
「やっぱりって?」
「瞑の者は、時間にルーズな者が多いんですよ」
 ほう。
「ひどい時は、五時間くらい平気で待たされます」
「……五時――」

 絶句してしまった。
 五時間待たされるなんて、冗談じゃない。でも、いくらなんでもそんなに待たされたりはしないはずだよね。

 三十分遅れ辺りから、ちらほらと人がやってきて、二時間後には一人を除いて全員集まった。乗車予定人数は私達も合わせて十一人だ。
 十人が、残りの一人を待って各々時間つぶしをしている。

 乗って良いの? と驚く私を尻目に商談風の男性二人がついて早々に乗車し、ずっとなにやら商売の話をしていたり、イチャイチャカップルが外で景色を眺めながら、お前は世界一可愛い。いや、貴方の方がかっこいいなどと言いながらじゃれ合っている。
(――ケッ!)

 二人の幼い子を連れた男性は、子供がはしゃぎまわるのをのんびり見ていたり、時には走って行って叱ったりしている。
 最後の一人、恰幅の良いおばさんは、しばらく外でカップル達と話しをしてたけど、飽きたのか遠慮したのか今は荷車の長椅子の上でイビキを掻いて寝てる。

 私達も、長椅子の上でぼんやりしていた。
 待ってるのって退屈だし、なんか妙に疲れるんだよねぇ。私もおばさんを見習って寝ようかなぁ。なんて、暢気なことを思ってられるのもこのときまでだった。

 最後の一人は、それから三時間後に悪びれたようすもなくやってきた。
 二十代後半辺りのその男は、謝りもせず、「やあ、やあ。みなさん。お待たせ! あれ? 俺が最後? じゃ、出発しようか!」なんて、大変明るい口調でのたまって乗り込んできた。

 ぶん殴ってやりたい。って思った人は、生まれてはじめてだ。

 心の狭い私とは対照的に、瞑のみなさんは文句を言うでもなく、「ハッハッハ! よし! じゃあ行こうぜ!」なんてテンションで大遅刻男を迎え入れてたけど、私はみなさんほど心を広く持てないようで。大遅刻男を睨んでしまったよ。

 ということで、私達が出発したのは遅れも遅れて、予定時刻の五時間後。午前十一時。ウロガンドにて魚刻だった。
 
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