「では、早速私の家に案内しましょう」

 善は急げとばかりに馬車を呼び、エドワルトが向かったのは王宮の近くにあるエドワルトの居館だった。

 リーリヤにしてみれば、できればこのまま王宮を探索したかったのだが、さすがに歩く先々で、男爵令嬢との不義を囁かれている状態では、目立たずに動くことはできない。

 だから諦めて馬車に乗り、王宮から通り二本ほどしか離れていないエドワルトの邸宅へと向かったのだ。

「つきました。ここです」

 馬車を降りて、見上げた屋敷にリーリヤは息を飲んだ。

(確か、エドワルト様が兄王から与えられた爵位は公爵)

 男ばかり三人兄弟の一番末の弟を、兄王は幼い頃からたいそうかわいがっているという。噂を証明するように、兄がラインシュタール公爵という名前と共にエドワルトに与えた白亜の居館は、まるで王宮を小さくしたように美しいものだった。

 見上げた青い空の下に王宮と同じ白大理石で造られた建物は、窓辺で翻る黄色のカーテンと合わさって、まるで目を奪われるような鮮やかさだ。

 リーリヤを招くように柔らかに揺れる金糸雀カナリヤ色のカーテンを見上げ、ごくりと息を飲み込んだ。

(入り口までなら今までも来たことがあったけれど……)

 しかし、中には入ったことがない。

 エドワルトと森で知り合って半月。

 たまに会う貴族ならともかく、身近に使える者なら、急に主人に婚約者ができれば不審に思うだろう。

 だから、会うのは、軍で忙しいエドワルトが招待された夜会のパートナーや街でのお茶などにして、王宮に入れる機会を狙っていたのだ。

(それが、まさか一回目で失敗するとは思わなかったけれど……)

 綿密な計画だと思っていただけに、我ながら情けない。

(だけど)

 と息を飲み込む。

(さっきはエドワルト様の勢いに思わず頷いてしまったけれど……)

 よく考えたら、普段エドワルトの身の回りにいる使用人達には、リーリヤが嘘の婚約者だとすぐに見破られかねない。

(うーん。どうしたものかしら……)

 何しろ、半月前までは婚約どころか互いに顔も知らなかったのだ。急すぎて、不審に思われて当たり前だろう。うんと、思わず腕を組んで自分の考えに頷いてしまう。

「行きましょう、どうぞ」

 馬車から降りた途端、考え込んで動かなくなってしまったリーリヤを誤解したのだろう。

 先に降りたエドワルトが緊張をほぐすように、そっと階段の前で手を差し出してくれる。

「え、ええ……」

「本当は、ずっと貴女をみんなに紹介したかったんですよ。間もなく迎える私の伴侶として考えていたのですが、ちょっと順番が変わりましたね」

 はははとエドワルトは柔らかく笑っている。けれど見つめてくる青い瞳に、まっすぐに自分が映っているのに気がついて、どきりと胸が跳ねた。

(いやいや、私がかけた嘘を信じているだけだから!)

 勘違いしてはいけない。これは魔法でエドワルトが自分を婚約者だと信じているからの仕草なのだ。

 だから頭を軽く振って落ち着きを取り戻すと、エドワルトの手を取って一緒に階段を上った。

(まあ、いざとなればお互いに一目惚れしたとか、エドワルトが錯乱したせいで人前で土下座されたから婚約したとかなんとでも言い訳はできるわ!)

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