幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

3、おさまらない怒り


 後ろ髪を引かれるが心を鬼にし、陸をマンションの下に放置したまま要は車に乗り込んだ。


「ちょ、おい! 要!! 陸ちゃんを、」

「チャイルドシートに乗せたか?」

 有無を言わせず最低限の発言をする要に、涼介はタジタジだった。

基本的に優しい…優し過ぎる涼介は、強気な発言をかまされると黙ってしまう。

そして、涼介そっくりの性格の啓介は、要の鬼の形相に恐怖し、素直に大人しく静かにチャイルドシートに乗っている。


「乗せたけど。陸ちゃんを、」

「黙れ、お前の話を聞く気にならない」


 車が走り出したら会話は出来ない。

 今発売されている多くの車のエンジン音はスーと静かなのが主流だが、それを無視したような爆音のエンジン音をさせながら走行する高級車。

 車内はブォンッ、ブォンッ、ブォンッ、という重低音のエンジン音のみとなっていた。


(くそっ、可愛いかった!!!)

 口には出さない惚気と共に、長く友人をしている天然系イケメンの涼介に怒りが湧き上がっていく。

 要は金と権力を最大限に利用し、探偵を使って(最早ストーカー)陸の動向を逐一報告させていたから、陸の切ない事情(勘違いであるが)は知ってはいた。

 知ってはいたが、聞くのと見るのとの違いは雲泥の差だった。涼介の息子である啓介を胸に抱いて、まるで夫婦のように微笑みながらマンションから出てきたのだ。

(残酷な奴め、地獄に落ちろ! むしろ落としてやりたい!!)


 ハンドルを握りしめながら涼介を罵る。

高級車のハンドルは大体が革張りな為、要が力をねじ込むように握ればハンドルはミシミシと悲鳴をあげる。


「ちょうど近くで会議があるから迎えに行ってやるよ」と要の爽やかな声を昨日、聞いたはず。

 昨日の会話から今に至るまでに何があったのか?? 怒っているのは分かるが理由に検討がつかず、送ってあげると言った手前、置き去りにしてしまった陸に申し訳なくなる。

(要は、何故怒ってるのかな? 昨日はえらくウキウキで迎えに行ってやると言っていたのに…)



 棚ぼたを狙い(陸に会えるかも?)迎えに行くと言い出したが。

要自身、まだ陸に会う気はなかった。理想はチラッと姿を見せ「あれ? まさか…要さん?」と、きょとんと驚く陸の顔が見たかったのだ。

 理想と現実は異なり、陸の発言は「ど、どなたですか? 涼介さんの知り合いですか?」ときた。

要の事は全くと言っていいほど陸の脳内になかったのだ。

 要は来る日も来る日も陸を思いつつ、主に股間を慰めているのにだ。

 劇的な再会ロマンチックを描いていた要には、他人(要)の車に、まさか涼介が能天気に陸を誘うとは思いもよらなかった。

「(遠目で一目、見るだけで良かったのにっ)くそッ!!!」

 要の「くそッ!!!」で涼介と啓介はビクッと緊張が走り、啓介が泣き出す一歩手前だった。


 要は、部屋が隣どうしで陸が姉と義兄が忙しいからと家政婦のような事をしているのもを理解していた。

 初恋の人である涼介を忘れられず、せめて生活の世話くらいは…と思い、健気に家政婦をしているのだろう。

陸の淡い恋心を優しい想いを踏みにじる能天気な夫婦に殺意がわく。

 探偵の報告にも、別に涼介を奪い取ろうとする仕草は見えないとあった。だがあの素晴らしい肉体を目にして果たして涼介こいつは我慢できるのか!?

(俺は、無理だ)

 数年前、婚約しラブが止まらなかった 海(陸の姉)と涼介はリビングでセックスをおっぱじめ。あろうことか陸はそれを見てしまった。

 あまりのショックに、身体が強張り動けなくなったのだろう。二人に声が漏れないようにと、嗚咽を殺しながら大量の涙を流す陸がそこにいた。

 スカートの布地の色を変えるまで泣いていた姿は、今も鮮明に思い出せる。

 初恋である愛する男が自分の実の姉とよろしくやっているのを、声を殺しながら泣いていた陸。


 正直のところ何故其奴だ? と思った。

 何故俺じゃない?

 涼介より俺の方がいい男だ、違うか?

 俺なら泣かせはしない。何故、涼介なんだ?


 実際面と向かって陸と会ったのは片手で数えるほどだが、惹かれ会う運命を感じのは要だけだったのか?
少し目が合うだけで満たされた気持ちになったのは要だけなのか?


 要は奇跡の超ハイスペック独身男性だと、皆から言われている。
しかしそれはあくまで要が持つスペックを刈り取ろうする女豹達が言っているだけなのだ。

 同じ分類に分けられる(分けられたくないが)ハイスペック独身男性の会(集まり)に呼ばれた要は毎度ウンザリしていた。

 将来繋がりを持ちたい、若く有望な若者と会う為に嫌ながらも集まりに行くが、そいつ達も百戦錬磨の女豹達には敵わず、あっという間に食われていく。

 女に簡単に落ちる奴には興味がない。貴重な時間を奪われた数日前の怒りまで蘇ってきた。

 確かに学生の頃、要は遊んだ。遊びまくった。しかし身体はスッキリしていても心は凍ったまま。その状態を溶かしたのは〝あの陸の涙〟だった。

 健気に押し殺す涙を見て、己の真の心が暴かれ恋を自覚させられ、あっけなく落ちた。

 陸の写真を見ながらする方がよほど身体も心も満たされる。

 いや、これもあくまで陸が誰のものにもならず、まだ男を知らない処女だから楽しいのであって、目の前で陸が他の男と繋がった暁には、相手を亡き者にし、要は犯罪者になってしまうだろう。

(己を磨きまくったのは、劇的な再会を果たし、陸を俺に惚れさる為。新たな恋に落とすには最高の逸材が必要だろう!!
 仕事も見目も誰よりも努力した。人の3倍、4倍それ以上に努力した!!
 ほぼ毎日ジムに通い筋肉をつけ、髭は脱毛し、頭部は薄くならないようホルモン注射や薬まで服役しているのにだ、なのにだ!! こんな女心が全く分からない能天気な奴に負けたくない!)

 間抜けはどっちだと、陸が要の脳内を知ったなら怒鳴っただろう。神のみぞ知る気持ちだが、勘違いが甚だしい。

 社内やメディアでいくら皆が奇跡のハイスペックだと要をもてはやしても、陸に好かれなければ宝の持ち腐れ。

純粋に要は陸だけに愛されたいのだ。


「着いたぞ」

「あっ、うん」

 涼介は半泣きの啓介をチャイルドシートからおろし、保育園に連れていった。バタンっと開いたドアが閉まる。

 涼介に行ってやりたい事は山とある。でも先ずは。


「殴らせろ」

 車内に一人残った要は涼介を待つ間、嫉妬と苛立ちで、まるで黒い炎が上がっているように見えるほど怒り狂っていた。


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