幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

5、中華料理は円卓会議と一緒に


 駐車場では決してない場所に止められた高級車を視界に入れ、要に腕を掴まれながら店内に入る。

 和洋折衷の建物は、椅子やシャンデリアも煌びやかでまだ昼前にもかかわらず妖しい夜の雰囲気を纏っていた。

「要…ここで食事するの?」

「あぁ、食事は会議の後にな。お前の秘書がそろそろ到着するだろう。いい仕事の話がある」

 まさに傍若無人。

「まって、僕は午後一には会社に入らないと。海にも伝えてあるから!」

「伝言済みだ。直接会社に話を通した。決定権はお前に任すと海も話していた。だからお前の秘書と俺の秘書を同席させる」

「えー!? 何、それ、聞いてないよ!!」

「今、聞いたからいいだろう」

 無茶苦茶な理由だ。確かに啓介の朝の準備やらで忙しいのが分かっているから、あえて電話やラインは無しにしたのだろう。

 というか、要は朝一に海と話したんだ。これは殴られた決定的な理由。海は若干空気が読めない。要 相手に涼介との惚気を話したに違いない。


(海ぃーーー、僕らの惚気は、要には禁句だよ。惚気は嬉しいけど、時と場合によるから…)

 涼介はトンチンカンな反省をしていた。

「…要は、海と話したんだね」

「大した話はしてない。大まかな予算案をメールすると伝えただけだ」

「そっか…」

 黙り込む涼介に、頬が痛いのだろうと思った要は、案内された円卓テーブルにつくなり、控えていたスタッフに指示を出し、頬を冷やすものを頼んだ。

 教育が行き届いたスタッフは、要が指示したものをすぐ用意してみせた。涼介は差し出された冷却剤に包まった、肌触り抜群の布をもらい頬に当てる。

 その間も、要は逐一指示を出し、円卓テーブルはまさに会議室となった。



 ***

 度を越した豪華さの個室。その中心部にデーンと置かれた円卓テーブルには四人のメンズが着席している。はっきり言って皆がイケメンの為、人気俳優撮影会の如く美しい光景。
 話している内容は、真面目な仕事話だったが。


「これが新作のブローチです。大ぶりではございますが、真ん中のエメラルド以外は全てシルバーで予算カットになっております」

 涼介の5歳年上の秘書である下倉しもくら 拓人たくとは我が社の一級品を要に淡々とプレゼンしていた。

「トータルいくらだ?」

「売値は30を目指しております」

 あらかじめ決まっていた額を拓人は伝えた。がそれは早々と要に却下される。

「ダメだ、それは高い。10までにしろ」

「要、10はキツイよ。頑張って20だよ」

「金が有り余っている年寄りが買うなら30でいいだろうが、今の若者に30出してまで宝石を買う奴はいない。裕介ゆうすけあれを出せ」

 要に言われた言葉に待ってましたと言わんばかりに、要の秘書である若田わかた 裕介ゆうすけはテーブル上に資料を手際よく並べた。

「こちらの資料は過去五年から今までの、10代から30代までの男女が購入した額、および何に使ったかの統計です」

 涼介と彼の秘書拓人はざっと目を通した。彼らが言わんとしている事は一目瞭然。

「家を抜けば一番高い買いものは、携帯、アプリへの課金です。それはどの層でもだいたい一位となっております。
 交通も便利になり現在の若者は車を所有しておりません。家の次は車そして宝飾品という時代は終わっております。
 さらに時計や衣服も、高級品を持つのがステータスではなくなり。安くオシャレに身を飾るのが、最上となっております」

「要は逆だけどね」


 涼介は軽く嫌味を投下する。いや、嫌味と捉えたのは涼介以外の三人。涼介は純粋に尊敬の念を入れて、逆だと口にしたのだ。


「金は働けば増える。貯めていても死んだらタダの紙切れだ。貯めるより未来の己へ投資が俺には合ってる。俺だからいい、他者が同じようには無理だ」

 同席していた秘書二人は、要の強気言動に呆然。口だけでなく要はそれ以上にパーフェクトだった。

「分かったよ、10でいく。エメラルドの大きさを半分にして細かい装飾を無しにしたらギリギリいけるかな。最後は海と相談だけど」

「発表はレッドアンドブラック賞の授賞式。最優秀演技賞をとる、鳥野とりの 苺いちごにつけさせろ。爆発的に売れる」

「えっ、要!? そこまで見てくれるの?」

「当たり前だ。金に落としてまでが仕事だ」

「鳥野 苺って、あの?」

 宝石と妻の海にしか興味がない涼介は、あまり芸能人を知らない。テレビも基本見ずに、もっぱら見るのは図書館や本屋で、花や昆虫図鑑や世界の絶景、世界遺産ばかり。そんな偏った生活の涼介でも知っている女優だった。

 涼介の問いに答えたのは、要の秘書、裕介。


「はい。小鳥の鳥に、野原の野、甘酸っぱい苺の鳥野苺です!! と紹介する女優です。下手ではないですが突起して演技が上手い訳ではなく、今後伸びしろがあるだろうと見込まれての授賞となってます。
 授賞式が龍鳳寺財閥所有のホテルでして、顔合わせを先日致しました。
 可愛いらしく見えるように瞳をウルウルさせ、要様に服を用意してくれと厚かましく強請っておりました。『脱がされても文句は言わないから…ドレスを贈って欲しい』と落としにかかってました」


「うわー、凄い子だね」「チャレンジャーな方ですね」と、衝撃的な現場を聞かされた涼介と拓人は苦笑い。


「はい、いつ要様がキレるかと、ハラハラしておりました」

「あんなガキにキレるか」

「いえ、もう血管切れそうでしたが?」


 最後は軽口を叩きながら、会議は終了した。秘書らが資料やらパソコンやらを片付けている側で、涼介は要に提案を持ちかける。


「要、今から食事だよね? あのさ、海も呼ぼうか?」

「海を? 何故だ」

「いや…だって、せっかくだし…」

 歯切れの悪い涼介に、そして妻の海といつまでもベッタリイチャイチャする涼介に切れそうになる。

(毎度、毎度、イチャつきやがって。寝室で二人きりの時にイチャつけ!! 天然夫婦のおかげでどれだけ陸が悲しんだかわかれ、天然阿保涼介!!)

 心で罵倒しながらも、秘書がいる為静かに否定だけする。


「金がかかる。四人分しか払う気はない」

 ピリッとした空気に、三人が硬直した。



 トロンポロンポロン、トロンポロンポロン、と場にそぐわない着信音が緊張の走る室内にこだます。

 まさに神業。要の目がカッ!!!と見開いたと思ったら、携帯画面を食い入るように見ているではないか。

 会議も終わっているし、音がなっても何ら問題はないが、音の種類に問題がある。何故そんな可愛らしい音なのだ?と。

 要の趣味だ。この音が一番、陸っぽいという理由で使っているのだ。それを唯一知る要の秘書裕介は、呆れ顔だ。そして秘書裕介の溜め息を更に要は濃くするのだ。


「裕介。過去最高レベルだ。一千万用意しろ」

「……谷間に500万払ったとこですが…」

「生…下……、す、少し席を外す」

「は? えっ! 要っ、鼻血!?」


 意味不明発言をしながら席を立つ要。顔を赤らめ、鼻血をふいて、かなり重大なことのはずが秘書である裕介は残念極りない顔だ。

 テーブルに置いたままの要の携帯画面を見た裕介は、コメカミをおしながら一言。


「龍神財閥の令嬢は、神というより悪魔ですね」


『こんにちは!龍神シャルロットです。先日の取り引きは満足頂けましたか?
  私は運良く、さらなるレアな一枚を手に入れましたので取り引きを所望致します。絵で描くとこのようなアングルになります。私も、はじめて目にしました、陸の生乳がこぼれそうな下着姿です。貴重な一枚ですから、一千万でお譲りしようかと思います。いかがいたしますか?
 お返事お待ちしております』


 と。悪魔のようなメール内容と丁寧な絵付き。ぼったくりもここまでいくと拍手もの。

 深海よりもさらに深い溜め息をつきながら、携帯画面を消し、画面を下にして机に置き、裕介は静かに円卓の席につく。



「さぁ、食事にしましょう」

「えっ、要は?」

「要様はそのうち帰ってこられます」とクールで辛辣な態度の秘書。


 そして動揺しまくる人が一人。

 今しがた目にした光景が忘れられない。間違いではなく、しっかり見た涼介の秘書 拓人。

(えっ? えっ? えっ? 今、龍鳳寺様、勃起してなかったか!?
 絶対に勘違いじゃなく!! スラックスが、やばいくらいテント張りになってたけど!?
 俺の見間違い!? いや、いや、いや、歩きにくそうだったし、絶対に勃ってたって!!!
 見たの俺だけ!? 俺の目がおかしいのかぁぁぁぁーーーーー!?)


 カオスな円卓には、豪華な食事が運びこまれていた。


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