幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

6、変態の襲撃


「くふっ、くふっくふふ、ひふふ…くふっ」

 笑いが止まらないシャルロットに陸は不思議で仕方ない。

 今は5限目。デザインの実習中。皆が真剣に図案を考え、ひと月先の提出日に向けて奮闘中であるのにシャルロットは何かが楽しくて仕方ないらしい。


「ちょっと、シャルロット…どうしたの? 笑い過ぎだから」

「ごめんなさい、あまりにも簡単で…くふっ、天下の彼でも、これだけは…くふふふ…」

 笑いが止まらない。陸は諦めた。うるさい訳ではないし、迷惑を周りにかけていないから良しとした。

 と、そこで隣と後ろに座っていた陸の友人、前野まえの 典子のりこと、田中たなか 美恵みえが陸に声をかけてくる。


「今日のシャルロットちゃん、どうしたの?」

「典のりちゃんと同意見!!」と美恵も小さく挙手をして見せた。

「いや、分かんない。2限目終わって一緒に昼食、食べたまでは普通だったから…」

「ふーーーん、美女で才女の頭の中は、凡人の私達には理解出来ないもんだね!」


 そんな高尚な笑いではなく、絶対に悪巧み系だ。典子と美恵に馬鹿正直に伝えなくていいかと結論づけ、陸は自分の課題を無心で仕上げていった。



「はい!! 今日はここまで。居残りしたい人は、許可証の申請が必要よ」

 教授の声が響いて、生徒達はワラワラと片付けをしだす。何人かは居残りするようで、申請書を教授にもらいに行っている。

 姉が早く帰ってくるので、陸は久しぶりに家政婦業はお休みだ。課題は順調なので、居残りはしない。どうしようかと今からの予定を考える。マンションに帰れば、姉は絶対に夕食に陸を誘う。

 せっかくの家族水入らずだ、邪魔はしない。そんな陸の思考を読んだのか、典子が素敵な提案を出してくる。


「ねぇ。今日さ、時間が空いてたらケーキバイキングに行きたいんだけど…誰か一緒に来て!!」

「私、いいよー」

「私も大丈夫! 行きたい!!」

「えー!? 陸ちゃんがいいの珍しいね!!」

「うん、今日はお姉ちゃんが早く帰ってくるから、夜ご飯の用意しなくていいんだ」

「「シャルロットちゃんは??」」典子と美恵がハモりながらシャルロットに詰め寄った。

 もちろんシャルロットも行きたかった。
「行くわ!!」といいかけて、婚約者兼護衛でもあるラースメンにそっと肩に手を置かれ「無理ですよ」という視線を貰う。

 優しくあたたかなラースメンの手の温もりに癒され、同時に今日の面倒な用事を思い出した。

 そうあの変態にA4サイズに引き伸ばした陸の、生乳下着写真を渡さなくてはならないのだ。

 流石に他人に任せるものではないし、これは交渉道具だ。一千万円は単なるオマケで、主は仕事。新たな事業を龍鳳寺と手を組み、仕掛けたいのだ。

(くっそーあの変態!! ストーカー並みに連絡してくるから!!15分おきよ? キモいから!!)


 今から遡ること1時間ほど前。

 美術大学は割り振りが変わっており、一般教養は基本90分だが、一般教養ではない専科の実習授業では一コマではなく、二コマの180分ぶっ通しの授業が通常である。

 そして専科の実習は基本が4限目〜5限目が多く、その後も延長して課題が出来る為、後半に組み込まれている事がほとんどであった。

 まだ4限目の時間がやっと終わるところで、シャルロットはラースメンに呼び出された。
 実習中にもかかわらず、凄い量の着信とメールが届き、仕事用携帯を預かっていたラースメンは本能的に恐くなり、緊急事態とばかりにシャルロットを呼び出したのだ。

 シャルロットが確認したメールの内容は、本当にキモかった。


『メールは確認した。取り引きにはもちろん応じる。提示された金額で頂く。まだ見てはいないが、きっと素晴らしい一枚だと思う』

『頂くと言っている。金はいつもの口座に振り込み済みだ』

『いつ、貰えるのか? 返答を一刻も早く知らせてほしい』

『一千万ではたりないか? もちろん、それ以上の価値がある素晴らしい一枚だろう。プラスで払うのも考えている』

『今、どこにいる。今現在、私は手があいている。貰いにいきたい』

『返答がほしい。出来れば画像は鮮明かつ直しをせず、あるがままでお願いしたい。
 追伸。絶対に他人には見せないでほしい』

『今夜はたまたま、急ぐ仕事がない。時間はあけている。どこでも構わない、貰いにいく場所を指定してほしい』

『プラスいくらだ。その、禁断の美しい被写体の奇跡の一枚を早く頂きたい。特注の額も用意済みだ。くれぐれも折り目などつけずに、持ってきてほしい』

『望む額を払う! いくらだ。いくらで手に入る!? 一刻も早く、返答がほしい』


 全てを読んだ瞬間、シャルロットは叫んだ。

「ギャー!! キモッ!!!」

 ラースメンも全くシャルロットと同意見で、携帯画面の中の恐ろしい要の執着心を、心の底からキモいと思った。

「普段とのギャップが凄いですね。あの冷酷と噂される御仁と同じ人とは到底思えません」

「いやだ、いやだ、メール打ちながら絶対、してるわよ。左手でガッツリ扱きながら、右手で携帯打ってるわよ!?
 ぃぎあぁぁぁぁぁぁ、キモいわ!! 恐怖だわ!! ラースメン、いくら私を好きでも、あんな変態になっちゃ嫌よ! 婚約破棄するから!!」

「……私はあくまで普通の人間ですので、どう転んでも龍鳳寺様のようにはなり得ません。
 同じ男としても、やはりこの異常な執着心は気持ち悪いです。思考回路が犯罪者ではないでしょうか?」

「陸は、あの世紀末ド変態の何を見て、恋に落ちたの? 全くこれっぽっちも理解出来ないんだけど」

「はい、人の好みは…それぞれなのでしょう」

 シャルロットとラースメンは軽く二人をディスってから、キモい内容のメールに返信をした。

『本日夕方、五時。ジョルデカルータ店で受け渡しはいかがですか?』と送った瞬間、本当に一瞬だ。
『了解した』と連絡が入った。


 二人して覗いた携帯画面には、ほぼ要からの要件で埋まっている。

「これ仕事用の携帯なのに、内容が18禁ね」

 悲しげにラースメンも頷く。ひとまず時間と受け渡す場所が決定したから静かにはなる…はずと。もう一度ラースメンに仕事用携帯を託し、シャルロットは実習に戻ったのだ。


 そして時はたち現在。

 つい1時間前のキモい事件を思い出し、魂がふわふわ抜けているシャルロットに、陸が呼びかける。


「シャルロット!? 大丈夫? シャルロットってば!!」

 脳内討論会から現実に帰ってきたシャルロットは、陸を抱きしめる。

「貴女を売ってごめんなさい!」

「はぁ?? 売る!? いやだよ、誰に!!」

「変態に……ま、言葉のあやよ…」


 ふっと笑いながら そらした目が死んでいるシャルロットに、陸は本気で寒気を感じ涙目だ。
 漫才みたいなやり取りに、大爆笑な典子と美恵。拍手までする始末だ。


「私もケーキバイキングへ行きたいけど、だけど!変態と戦ってくるわ!!」

 何も知らない友人達はガシッと手を握り、頑張って行ってこい!! と励ましている。どさくさに紛れて陸も輪に入るが、ちっとも楽しくない。

「じゃあねー、また明日ー」と典子が、
「シャルロットー、バァイ バーイ」と美恵が、
「……………」陸だけが胡乱な目でシャルロットを見ている。


 三人を見送ったシャルロットは、羨ましげにラースメンに抱きつく。

「私も、変態とお茶じゃなくて。陸と典ちゃんと美恵ちゃんとケーキバイキングが良かった」

「お可哀想に」

 腹あたりにぐりぐりと頭を擦り付けてくるシャルロットの頭を撫でながら、ラースメンは現実を突きつける。


「ですが、時間通りにいかなけば、さらに仕事用携帯電話が18禁携帯電話になりますよ」

「………そうね、行くわ」



< 6 / 32 >

この作品をシェア

pagetop