密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「ああっ! やーっと名前を呼んでくれたわね。私のさーちゃん!」

「な、なに!?」

 賑やかな声に当てられ、瞬時に周りを警戒する。けれど誰の姿もないことが更なる焦りを呼び起こしていた。仕事柄人の気配には敏感で、何かあれとっくに気づいているはずなのに。

「さーちゃんてば! ここ、ここよ!」

 何度周囲を見回しても人の気配はない。念のため木の裏手に回ってみたが、やはり誰もいなかった。
 そんな私の行動は検討違いなのか、声の主はじれったくなったらしい。

「ここよ! 上、上!」

 頭上からはまるで存在を主張するかのように羽音が聞こえる。
 まさか、もしかして……

「鳥さん、とか?」

「正解!」

 見つめ合えば、その瞳に喜びが宿る。

「う、うそ……鳥が、しゃべってる!?」

「そう、あたしよ、あたし! さーちゃん! ああっ、やーっと気づいてくれたのね! 久しぶり!」

 とても親し気だ。まるで顔見知りにように話しかけられている。

「どれほどこの時を待ちわびたことでしょう。ついに前世を思い出してくれたのね!」

 信じられないことではあるが、白い鳥はとても嬉しそうに喋っている。
 幻聴か。それほどまでに私は寂しかったのか。
 けれど……

「さーちゃんて、私のことをそう呼んでいた人は一人だけだった」

 しゃべる鳥は前世と言った。私の前世、山崎沙里亜を「さーちゃん」と呼んでいた人物を、私は一人しか知らない。
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