密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
料理人として
 国王陛下に名前を記憶され、目をつけられた。
 その密偵には監視すると宣言をされてしまった。
 これらを除けば私の料理人修行は順調といえるでしょう。厨房で問題が起きたのはそんな時でした。
 難しい顔をした料理長を筆頭に、城の厨房では料理人たちが顔を突き合わせている。これからメニューについての会議があるらしく、招集をかけられた私も話し合いに参加することになった。

「国王陛下からのお達しだ。明日の晩餐には誰もが驚くようなメニューを用意するようにってた」

「随分と急な話ですね」

 料理長からの議題を聞くなり副料理長は不満そうに言う。確かに副料理長の不満もわかりますけどね。
 現在は各国から王族たちを招いているため、食事のメニューは事前に国王陛下に確認を取り、了承を得ていたはずだ。それを急に、メニューを変更しろというのは横暴だろう。しかも誰もが驚くという難題付きだ。

「変更が難しければ陛下はそのままのメニューでも構わないとおっしゃられている。だがここで引き下がったんじゃあ俺らの威信に関わるって話だな。期待されたのに出来ませんで終わらせるわけにはいかない」

 反論が出ないということは、副料理長の意見も同じようですね。

「でも急に新しい料理を作れなんて、陛下も無茶言いますよね。こんなこと初めてですし」

 カトラ先輩が正直に言った。先輩の正直なところ、とても良いと思いますよ。その調子でもっともっとあの人に文句を言ってやって下さいね。

「さっそくいくつか案を出してはみたが、陛下の反応はいまひとつでな」

 料理長たちは果敢に挑んだが、陛下を満足させるには至らなかったらしい。美味しい料理を並べるだけでは満足してはもらえないのだろう。
 これは料理長に当てられた挑戦だ。けど私は、なんだか自分が挑発されているような気分になっていた。
 いくら悩んでも意見はまとまらず、会議はいったん解散となり、休憩が言い渡される。各々で再度プランを考えるよう言い渡された。
 じっとしていても何も閃かず、私は身体を動かすために城の裏手へと向かう。

「誰もが驚くような料理か……」

「へえ、ちゃんと考えてるんだ」

 いるだろうとは思いましたけど、本当にいましたね!
 私を監視すると宣言した女性が何食わぬ顔で独り言に乱入してきました。困るんですけど!
 思わず「暇なんですか?」と言いそうになりましたが、これが仕事と答えられて終わりでしょうね。余計な会話はしたくありません。

「何か用ですか?」

 そっけなく言い放てば、女性はやけに嬉しそうな顔をする。これ、私が困っていることを知って楽しんでいますね。まだあの夜のことを根に持っているのでしょう。
< 89 / 108 >

この作品をシェア

pagetop