身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
言葉を知らない、手探りの愛

【琴音side】

◇◆◇◆◇


 あっさりと優子にバレた。何がとは、つまり琴音の妊娠について。
 つわりが徐々に辛くなり、食事がほとんど食べられなくなりはじめていた。トイレで思い切り吐いた直後に、優子からの電話があったのだ。
 まともな声が出なくて、取り繕うことも出来なくて。

『琴音ちゃん? 具合が悪いの?』
「すみません、ちょっと、たいしたことはないんですけど」
『すごく辛そうじゃない。夏バテかしら? 水分は摂ってる? 家の中でも熱中症になるってテレビで言ってたわ』
「平気です、そういうのじゃなくて」

 思えばこのとき、優子の言葉に乗っかって夏バテですとでも言っておけばよかったのだ。だけど嘘の苦手な琴音は、その後もごにょごにょと言い辛そうに言葉を濁し、優子に『もしかして』と悟られてしまった。

 女の勘……いや、母の勘はおそるべし、だ。その日のうちに優子は安産祈願のお守りとグレープフルーツやレモン、プルーンなどつわりでも食べやすく妊婦の身体によいものを持ってやってきた。

 その日から、三日に一度は顔を見せる。決して長居をするわけではないのだが……。

「男の子だといいわね。あ、もちろん、どっちでもいいんだけど」
「あはは、はい。元気に生まれてくれたらそれで」
「あ、見て見て。最近ではネットでも可愛い服がたくさんあるのね」

 優子はマタニティの服をいくつかスマートフォンで琴音に見せ、その後にベビー服やメリー、玩具なども見せてくる。
 それらがそこはかとなく、青色など男の子用を思わせる色柄なのは、そっとスルーしておいた。

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