身ごもり秘夜~俺様御曹司と極甘な政略結婚はじめます~
閑ちゃん、キレた。

「琴音が戸惑うのはわかる。お互い忙しいから中々難しいだろうけど、結婚までの半年の間でゆっくり慣れてくれればいい」

 別れ際、そう声をかけた閑に、琴音はほっと息を吐いた。彼は琴音を変わっていないと言ったけれど、閑も変わっていない。

――閑ちゃん、わかってたんだなあ。

 琴音は子供の頃、関心が姉にばかり向かうのが寂しくて、気を引くような行動をよく取っていた。子供の本能のようなものだ。
 さすがに高校生になる頃には、姉は姉、自分は自分だと多少諦めのような境地に入った。両親の関心が薄いことを利用して、姉よりも自由に学校も部活も選べたのだから、きっと姉は姉で琴音を見て思うところもあったはずだが。

 琴音の幼少時の思いなど、誰も知らずに過ぎ去ったものだと思っていたけれど、閑が知っていた。何かと手を差し伸べてくれたのは、だからだったんだろう。

 ――ちゃんと、やっていける、きっと。

 長い間会っていなかった、初恋の相手だ。再会するまで不安と戸惑いでいっぱいだったが、昔も今も、琴音の感情を気遣ってくれる人なら、と思えた。

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