溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
「はぁー………。」
大きなため息を洩らす。
すると、突然後ろから腕が伸びてきて、あっという間に体を抱えられてしまった。
もちろん、犯人は椋以外にいるはずがなかった。
「りょ、椋さんっ!?」
「婚約初日の夜にため息をつくなんて、寂しいなー。」
「あ、あの!重いから離してください!」
「重くないよ。俺、鍛えてるし。それに、また敬語になってる。」
「あっ………。」
椋の指摘にハッとして、手で口を覆っているうちに、花霞を抱き上げた椋は移動して、花霞の体を大きなベットにゆっくりと下ろした。
「まだ、慣れない?」
「うん……椋さんはどうしてそんなにすぐに対応出来るのか不思議……。」
「結婚してみたかったから。ずっと…………。どんな事をしたい、とか。いろいろ考えてたからかな。」
「………椋さん、モテそうだよね。」
「そんな事ないよ。仕事ばっかりだから、なかなかね。それに………。」
「………ん?」
何か言いかけた椋だったが、開いていた口をゆっくりと閉じて、フッと言葉の変わりに息を吐いた。
そして、微笑見ながら、花霞の頭を優しく撫でた。
「なんでもない。………まだ花霞ちゃんは病み上がりだ。もう、寝ようか。」
「………はい。」
そう言うと、花霞の横に椋が体を倒した。そして、花霞の体と共に柔らかい布団をかけた。
2人で布団の中に入るとすぐに体が温かくなる。そして、椋の匂いに包まれる。
「じゃあ、おやすみ。明日からよろしく。」
「うん……おやすみなさい。」
「………恋人っぽく、おはようと、おやすみと、いってらっしゃいのキス、しようか。」
「へ………。」
「おやすみ、花霞ちゃん。」
花霞が返事をする前に、椋はまた触れるだけのキスをした。温かいぬくもりのあるキスで、緊張するはずなのに、何故かホッとするキスだった。
「おやすみなさい、椋さん。」
返事をすると、花霞の髪を撫で、そしてそのまま体を引き寄せられ、あっという間に椋の胸の中に体がすっぽりと包まれてしまう。
温かい。
人肌が気持ちいい。
誰かと一緒に居られるのが安心した。
これを求めて、花霞は求めていたのだ。
涙は出なかった。
この出会いと、居場所と、ぬくもりをくれた椋に感謝を心の中で伝えながら、花霞はゆっくりと瞳を閉じた。